ベランダから愛をこめて

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「次は何がいいかな、野菜、何がいいと思う?」 「野菜?」 「うん、スナップえんどうそろそろ終わるから、次に植えるの何がいいかなって」 「……」  漠然と野菜と言われても困る。好きな野菜はあるけれど、植える時期やベランダ菜園で出来るのか分からない。  そんな困惑が顔に出ていたのか、三田村はテーブルの上に置いていたスマホを手に取り何やら操作を始めた。 「5月位に植えるのだとオクラとかいいみたいだ」 「へぇ、オクラいいな」 「あとは……きゅうりはもう植えてあるな……ゴーヤ……お前ゴーヤ駄目だよな、あ、とうもろこし作れるんだ」 「とうもろこし、実家から多分送られてくるぞ」 「そうだ、去年食ったな」 「クレソン……いまいち料理の仕方が分かんないな……」 「……よくハンバーグとかの横にある緑のやつ?」 「うん、それ、あとは……小松菜、あ、これはいつでもいいみたいだな、葉ものはあると便利だな……香川は何がいい?」  5月に植える野菜という画面を見せてくる。  指を滑らせると、先程三田村が並べた野菜が次々と出てきた。  ゴーヤ、とうもろこし、クレソン、オクラ、セロリ、水菜、いんげん、クウシンサイなど。  ベランダにはプランターが二つ並んで置いてあり、更にミニトマト用に大鉢もある。  数日前の日曜日、スナップえんどうの収穫を手伝った事を思い出す。収穫、と言っていいのか分からない程の、両手の平に収まる位のスナップえんどうだったけれど。  それでも実を採るのはなんだか楽しかった。 「んー……やっぱりオクラかな?」  言いながらスマホを三田村に返す。  オクラは実家でも栽培していた。スナップえんどうみたいに手でもぎ採るのは難しいだろう、園芸用のはさみが必要だ。 「そうだな、オクラにしよう……種かな、それともこれ苗とかあるのかな……」 「マメだなぁ、お前」 「そうかな?でも、楽しいよ」 「ふーん」 「種を植えて芽が出てくれるとさ、嬉しいんだ、最初は水をやり過ぎたのがいけなかったのか芽が出ない時もあった。芽が出ても途中で虫がついたり、実がならなかったりなんてのもあったしな」  そういえばそんな話を聞いた覚えはある。でもそれでも栽培するのを止めず、丁寧に育てたからこうして美味しい野菜が出来たのだ。  カーテンで見えないベランダに視線を向ける、三田村も同じように視線を移した。 「種を植えて芽が出るまでは長かったけど、それでも栄養をたっぷり与えて、そして食べ頃になったら収穫、それをオレが愛情込めて料理する、だから楽しいよ」  三田村はベランダの方に向けていた視線をオレに向け微笑む。  目を細め、まるで慈しむみたいに、まるで愛しむみたいに。 「……」  不意に込み上げてきた感情を覆うように口元を手で隠し、下を向く。 「香川?」  種を蒔いていたのは何もプランターにだけではないじゃないか。
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