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猫が目を細め飼い主を見つめるのは愛情の印だと、なにかで読んだ事がある。
ふと目が合った時、優し気な瞳が細まり口元にも微笑が浮かぶ。何度そんな風に見つめられただろうか。
猫、みたいだ。なんて呑気に思っていたが、そんな視線を何度も受ける内に、もしかしたら好意を抱かれているのかもしれないと思い始めたのは。
それでなくても、学生時代から数えて三田村は幾度となく飯を作ってくれている。週に二、三回の夕飯が弁当付きになり、今では週の大半の食事は隣の部屋で食べている。
友達、よりも親密なのかは分からない。飯は一緒に食うけど、週末一緒に出掛けるような仲ではない。でも仲は良いのだと思う。
同じ大学で同じ学部の隣の部屋の同級生は、卒業してからも引っ越す事はなく今も同じアパートの隣の部屋にいる。
三田村想は今も目の前にいて、猫みたいに目を細めオレが夕飯を食べているのを楽しげに見つめている。
大学2年の頃から夕飯を作ってくれるようになり、いつからか三田村は食事中のオレの顔をまじまじと見つめてくるようになった。何回止めろと言っても聞かないので、諦めたしもう慣れた。今ではこいつの趣味みたいなもんだと思っている。
これが4年続くオレ達の日常だ。
「おいし?」
「うん」
口に運んだのは、ベランダのプランターで作ったというスナップえんどうを入れたポテトサラダ。
あんな狭いベランダでよく家庭菜園なんて出来るなと感心してしまうが、三田村は熱心に育てている。もう少ししたらきゅうりが出来ると言っていた。
「明日の弁当にも入れるな」
二人分の食事を置けば狭くなるローテーブルの上にはポテトサラダ、スナップえんどうの豚肉巻き、キャベツともやしのナムル、もやしと油揚げの味噌汁。
弁当にはポテトサラダと肉巻きが入り、多分朝卵焼きを作って入れてくれるのだろう。いつも弁当はそんな感じで、夕飯と一緒のおかずが入っている。
「うん、スナップえんどう美味いよな、あんま食べた事なかったけどこれ好きだ」
「だよな、去年そう言ってたから今年は作ってみた」
作ってみた、というのはベランダで、という事だろう。マメだ。
ていうか、オレがスナップえんどう好きだから作ったのか?
聞けば答えてくれるのかもしれないが、何となく聞く気にはなれず別の事を聞いた。
「ポテトサラダって面倒じゃないの?作るの」
「あー、どうかな……ちゃんと作ると大変なのかもだけど……オレは適当にやっちゃうし、そんなに面倒じゃないよ」
曰く、蒸かしたじゃがいもの皮を剥き、小さく切ってビニール袋に入れて手で潰し、そこに調味料と細かく切ったスナップえんどう、ハムを入れた簡単ポテトサラダらしい。
そもそも芋を蒸かすのって面倒な気がするけど?そうでもないのか?レンチンできるから楽なのか?
にこにこしてて機嫌が良さそうな様は、ゴロゴロと喉を鳴らす猫に見えなくもない。いや、猫だとしてもこいつは大型の猫な気がする。
だって自動販売機とほぼ同じ身長で趣味でジムにも行ってるので。平均身長のオレがその辺にいる猫だとしたら、こいつはライオンとか虎だ。動物園にいるのじゃない野生の。
「なに?」
いつもとは逆でじっと三田村の顔を見つめていたら、三田村は不思議そうな顔をして首を傾げた。
「……なんでもない」
上手く誤魔化せなくて視線をスナップえんどうの肉巻きに移す。
三本のスナップえんどうを豚バラ肉で巻いて、味付けは塩コショウ。シンプルだが美味い。
それを箸でつまみ上げ口に放る。
炒めるとパリパリとした食感になるスナップえんどう、個人的には茹でたやつより好きだ。
「美味いだろ」
また目を細め三田村がこちらを見る。無言で頷けば、奴は嬉しそうに笑った。
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