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未菜はそのまま這うようにして、その柱の側へ寄る。それからその文字が現実であることを確かめるように、ゆっくりと撫でる。少し埃が舞った。幾度か咳き込んで、もう一度確かめる。この文字は、「あ」?
次の文字は、と震える手で思い切ってカーテンをめくると、一際激しく散る埃に何度か瞬きを繰り返しているうち、その全貌が見えた。
み な へ
あ り が と う
ひ ろ と
「今さら……」
苦笑すると同時に、また目の前がぼやけ始める。予感の力を借りながら三年半ほどの時を経て、今未菜の元に渡った十一文字は、そんな壮大な道のりを歩んできたにしてはやけに物寂しかった。しかしそれは逆に、未菜の心へのし掛かるのではなく、柔らかくそこにぴったり収まるかのように落ちていった。
永遠に続くかと思われた夕闇の世界が、本当の濃紺に入っていくまで、そう時間はかからないようだ。このままずっと文字を目で追っていたい気持ちを振り切って、未菜は立ち上がる。もうここへは当分来ることはないように思えた。
だけど、いつかまた───。
今ここに広人はいない。
だから代わりに未菜は、遠く広人の居るところまで繋がっているこの空に、誓った。
fin…
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