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次の日は、朝から主人が不在との事で、室内の調査が許可された。
朝食は広い部屋にたったひとりだった。
この館にいる間、ルークスはデセーオに用がない限り、朝と夕食、必ず主人のデセーオと共にしていた。
そこに同席するものはいない。
ここには主人とその配下の者以外、いないようだった。デセーオには伴侶もいなければ、親族といったものも見られない。客が訪れる事もなかった。
朝食後、デセーオの部屋を探索する。
今までと同じ、立会人としてシンが傍についた。彼の視線を感じながら、デセーオの部屋を見て回る。
落ち着いた調度品に、ぎっしりと壁の棚へ並べられた蔵書の数々。しかし、これといって、変わった趣味はないようだった。
ごく有り触れた書斎に過ぎない。
まあ、見つかるはずもない。
形ばかりの探索になる。
ふと、デセーオの寝所の床にシミを見つけ足を止めた。
木の床にほんの僅か、五ミリにも満たない黒いシミがあった。ベッドの下を探るふりをして、その痕に触れる。
「っ…!」
これは──。
一瞬、人の断末魔の叫びを聞いた気がした。
「どうかしたのか?」
「…いや。何も」
すぐに立ち上がり、周囲を確認する。
その他には染みは見当たらなかった。敷かれた絨毯も、調度品も綺麗に磨き抜かれている。
しかし、ここで人が闇の餌食になった…。
闇の痕跡があれば、触れただけで分かる。その記憶をそこから読み取ることができるのだ。
やはり、ここで何かが…。
ルークスは何事も無かった様に振り返ると。
「ありがとう。もういい」
「いいのか?」
「ああ。何も見つからなかった。これで探索も終了だ。館にはそう伝える。デセーオ様にも帰って来たらそう伝える」
「…わかった」
シンはそれまで組んでいた腕を解くと、立ち去ろうとしたルークスの肩に手を置いて引き留めた。
「シン?」
「もう、ここへは二度と来るな。…わかったな?」
「ああ。だが…」
ルークスはその肩に置かれた手に自分の手を重ねると。
「君はここを出ることもできるのだろう?」
「主人の用があれば、街にはいく…」
「なら、君とは会うことはできるのだな?」
「ルークス?」
ルークスは笑んで見せると。
「数日しか一緒にいなかったが、君といるのはとても居心地が良かった。また会えると嬉しい…」
本音だった。
本来なら、闇の神子かもしれない彼にそんな言葉を継げるなどあり得ない事だろう。けれど、どうしてもそれを伝えたかった。
この館にいる間、自分の面倒を何かと見てくれたシンとは、ずいぶんと打ち解けることができた。
シンからはどうしても闇の気配を感じない。
それが、自身の警戒を解いていたせいかもしれない。
友人として、彼と会うことが可能なら──。
「あなたは…」
シンの目が一瞬、苦し気にゆがめられた気がした。
「シン、ダメか?」
「俺は…」
何かを言おうとして、しかしその口をつぐんでしまう。そこへ、
「デセーオ様がお帰りです」
執事の声が響く。それでシンの答えは聞けずじまいに終わった。
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