第3話 闇の気配

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「やあ。今晩でさよならとは、寂しい限りですな?」  主人のデセーオがゆったりとした仕草で、グラスを掲げる。 「いえ。こちらこそ、大変お世話になりました」  帰って来たデセーオに、先程報告した所だった。 「なんのお構いもせず、済まなかったですね。せめて最後の晩餐を楽しんでいってください」  今までより、更に豪華な食事が運ばれてくる。酒も次々と注がれ、流石に途中で断りを入れた。 「しかし、あなたはお美しいですな? 光の神子はみな優れた容姿を持つといいますが。こうして見るとやはり普通の人とは違う…」  デセーオはグラスを傾けながら、ねっとりとした視線を向けてくる。  それは何か恐怖をも感じさせるのだが、それを表には出さず、 「そんなことは。私など、神子の末席にいるものですから」 「あなたが? …それは謙遜でしょう。あなたが末席なら、この世のもの全てがその下になる…」 「お戯れを。私程度のもの、どこにでもおります。さて、そろそろ、時間が来たようなので──」  光の館では、これから報告を兼ねた打ち合わせが入っていた。既に時刻は午後九時を回るが、時間など関係ない。  アルドルらにも連絡を入れてあった。明日にでも顔を出すと。一旦、館に戻ってから再度出直すつもりだった。 「わかりました。残念ですがこの辺でお開きですね? しかし、すっかり飲ませてしまって。少しお部屋で休んでいてください。こちらで足を用意させます。シン、馬の用意を」 「は」  シンが退出したのを見届けると、デセーオは下僕からワインとグラスを受け取り、立ち上がって自らが注いだ。 「これは私の祖国からわざわざ運んで来た逸品です。最後にどうぞ」  デセーオ自らこちらに歩みより差し出してくる。流石に断れない。 「では。一口だけ…」  白ワインだった。琥珀色に近いそれが蝋燭の光を受けて飴色に輝く。  口に含むと、スッキリとした柑橘の香りが鼻に抜けた。少し舌先に痺れを感じたのは気の所為か。  デセーオはそれを見て笑むと。 「シンから、聞きませんでしたか?」 「何をですか?」  グラスをテーブルに置くと、傍らに立つデセーオを見上げる。 「私は美しいものに目が無いのですよ。特に金色に光輝くものには…」  デセーオの手が、テーブルに置いたままの手の上に重なる。  不穏な空気を察知し、イスから立ち上がろうとすると、グイと手首を掴まれた。 「っ!?」 「あなたに闇の力を見せれば、抵抗されるのは目に見えています。…ですから、少しワインに仕掛けを」  闇の? やはり──。  舌先の痺れが、徐々に身体に広がって行く様だった。デセーオの手を振りほどけない。 「…に、を…?」 「殺しはしません。当分、楽しませていただきます…。貴重な光の神子ですから」  デセーオの顔が目前に迫った所で記憶が途切れた。
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