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ふと、寒さを覚え、目を覚ました。
見知らぬ白い天井が目に映る。月光を反射しているのか、白い光が風に揺れて見えた。
俺は──。
「っ…?」
くっと手首を引かれ、何かと顔を向けた。
見れば手首が細い紐で縛られベッドに固定されている。それは両方の腕に施されていた。少しくらい暴れたくらいではほどけないだろう。
ああ。俺は、この館の主に…。
唇を噛みしめると、冷えた声が頭上に聞こえた。ベッドサイドがきしみ、そこへ人が腰かけたのだとわかる。
「ふふ。手荒い真似をして申し訳ありません。ですが、こうでもしないと、あなたは暴れるでしょうから」
声の主はデセーオだった。笑みを浮かべつつ、俺の傍らに座り、頬を撫でてくる。
寒いと感じたのは、衣服がはぎとられているからだった。
かろうじて下半身はシーツがかけられているが、それもどかせば何も身に着けてはいない。
「…こんな事をして、どうする? さっさと殺せばいいだろう? お前は闇の神子なのだから」
デセーオは声を出さずに嗤った。
「…あなたはその欠片を見つけたようですね? ここで」
そこはデセーオの寝室だった。
このベッドの床で黒いシミにとなった血を見つけたのだった。そこから得られた情報は、彼が闇の神子であることを意味していた。
「ここは私の領域。光の力が僅かでも使われれば分かります。闇の神子…。ただし、私はただの神子ではありません」
「それは…?」
デセーオの手が頬から首筋、胸へと滑り降りていく。感触を愉しむ様にゆっくりと。
其のたびに鳥肌が立った。
「私が、闇そのもの。神子ではない…」
「闇、そのもの…?」
「人を食らい続け、闇と同化したのです…。王と言ってもいい。ここでもいくつもの生を奪いました。その恐怖、哀しみ、全てが闇の糧となる…。長い間をかけて、闇の種を大きく育てました。私の中で…」
と、撫でていた手から黒い霧のようなものが溢れ出てきた。
霧のようなそれは触れても感覚などなさそうでいて、肌の上をすべるとぞわりとした嫌な感触があった。
「闇は私自身。もう、誰も私に歯向かえるものはいない。例え光の神子といえども。その光、ひとつひとつ奪っていきましょう…」
言うと、デセーオの放った黒い霧が身体の上を浸食しだした。
「っ!」
口から入り込もうとするそれを、顔を背け避けようとするが、無意味だった。
「少しずつ、闇であなたを侵していきます。内側から闇に食いつぶされるのです。それは想像を越えた苦痛をあたなにもたらす…。しかし、私には快楽を与える。光をいつまで保つことができるのか、愉しませて貰いますよ…」
「っ! ふざ──」
僅かに開いた隙間から、その黒い霧が入り込もうとした途端。バチリ!と激しい音がして闇が弾けた。
「なに?!」
デセーオが目をむく。
見ればルークスの身体が白く発光し、その光が次々と身体を覆っていた黒い霧を消し去って行く。
最後にはデセーオ自身に襲いかかった。デセーオはそれを避けるが、かざした腕と顔を焼かれる。
「っ!」
と、同時に扉が勢いよく開かれた。
「ルークス!」
シンの声だった。そのまま、剣を振りかざし、浮足立ったデセーオを斬り付けると、ルークスとの間に立ちはだかった。
寸での所で後退し避けたデセーオは、鋭い眼差しをこちらに投げつける。
「貴様...! 裏切る気か?!」
「お前など、一度として主などと思ったことなどない!」
もちろん、闇の力に剣で対抗はできない。
しかし、身体はまだ生身。斬り付ければ、致命傷とはいかないまでも、大きな損害を与えることはできた。
「大丈夫か?」
続いてアルドルが入って来た。
かなりの腕前を持つとみられるシンは、すぐにデセーオを床へと屈服させる。その首へ剣を突きつけると。
「アルドル! 紐を切れ!」
「分かってる!」
アルドルはすぐにベッドのヘッドへ括りつけられていた紐を切り、自由にしてくれた。
素肌を晒す身体へ、身に着けていたローブを脱いで纏わせてくれる。
「こっちだ!」
シンがデセーオと対峙している間に、アルドルが抱き抱えるようにして部屋から連れ出した。
廊下に出ると、デセーオの兵、闇の神子が立ち向かってくる。
皆、それほどの使い手ではないのか、闇の力より剣に寄ってその行く手を塞ごうとした。
「ったく、うっとうしい!」
そう言って、片っ端からアルドルは切り付けてはそこへ打ち捨てる。
ルークスは闇の力の影響でほとんど身体に力が入らない。それを抱えながらもやってのけるのだから、アルドルもかなりの手練れだった。
「俺も歩ける。下ろしてくれ!」
「バカ言うな! あんた、ろくに力もはいらんだろ?」
「大丈夫だ! 俺にも剣を…!」
横から斬りかかってきた敵に、思わず息を飲む。しかし、目前に迫ったそれを、放たれた矢が防いだ。
「こっち! 早く!」
開け放った入口から弓を放ったのはケオだった。
「すぐ行く!」
アルドルは俺を抱えなおすと、適当に敵を排除しつつ、いっきに駆け抜けた。
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