第4話 守りの力

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 ふと、寒さを覚え、目を覚ました。  見知らぬ白い天井が目に映る。月光を反射しているのか、白い光が風に揺れて見えた。  俺は──。 「っ…?」  くっと手首を引かれ、何かと顔を向けた。  見れば手首が細い紐で縛られベッドに固定されている。それは両方の腕に施されていた。少しくらい暴れたくらいではほどけないだろう。  ああ。俺は、この館の主に…。  唇を噛みしめると、冷えた声が頭上に聞こえた。ベッドサイドがきしみ、そこへ人が腰かけたのだとわかる。 「ふふ。手荒い真似をして申し訳ありません。ですが、こうでもしないと、あなたは暴れるでしょうから」  声の主はデセーオだった。笑みを浮かべつつ、俺の傍らに座り、頬を撫でてくる。  寒いと感じたのは、衣服がはぎとられているからだった。  かろうじて下半身はシーツがかけられているが、それもどかせば何も身に着けてはいない。 「…こんな事をして、どうする? さっさと殺せばいいだろう? お前は闇の神子なのだから」  デセーオは声を出さずに嗤った。 「…あなたはその欠片を見つけたようですね? ここで」  そこはデセーオの寝室だった。  このベッドの床で黒いシミにとなった血を見つけたのだった。そこから得られた情報は、彼が闇の神子であることを意味していた。 「ここは私の領域。光の力が僅かでも使われれば分かります。闇の神子…。ただし、私はただの神子ではありません」 「それは…?」  デセーオの手が頬から首筋、胸へと滑り降りていく。感触を愉しむ様にゆっくりと。  其のたびに鳥肌が立った。 「私が、闇そのもの。神子ではない…」 「闇、そのもの…?」 「人を食らい続け、闇と同化したのです…。王と言ってもいい。ここでもいくつもの生を奪いました。その恐怖、哀しみ、全てが闇の糧となる…。長い間をかけて、闇の種を大きく育てました。私の中で…」  と、撫でていた手から黒い霧のようなものが溢れ出てきた。  霧のようなそれは触れても感覚などなさそうでいて、肌の上をすべるとぞわりとした嫌な感触があった。 「闇は私自身。もう、誰も私に歯向かえるものはいない。例え光の神子といえども。その光、ひとつひとつ奪っていきましょう…」  言うと、デセーオの放った黒い霧が身体の上を浸食しだした。 「っ!」  口から入り込もうとするそれを、顔を背け避けようとするが、無意味だった。 「少しずつ、闇であなたを侵していきます。内側から闇に食いつぶされるのです。それは想像を越えた苦痛をあたなにもたらす…。しかし、私には快楽を与える。光をいつまで保つことができるのか、愉しませて貰いますよ…」 「っ! ふざ──」  僅かに開いた隙間から、その黒い霧が入り込もうとした途端。バチリ!と激しい音がして闇が弾けた。 「なに?!」  デセーオが目をむく。  見ればルークスの身体が白く発光し、その光が次々と身体を覆っていた黒い霧を消し去って行く。  最後にはデセーオ自身に襲いかかった。デセーオはそれを避けるが、かざした腕と顔を焼かれる。 「っ!」  と、同時に扉が勢いよく開かれた。 「ルークス!」  シンの声だった。そのまま、剣を振りかざし、浮足立ったデセーオを斬り付けると、ルークスとの間に立ちはだかった。  寸での所で後退し避けたデセーオは、鋭い眼差しをこちらに投げつける。 「貴様...!  裏切る気か?!」 「お前など、一度として主などと思ったことなどない!」  もちろん、闇の力に剣で対抗はできない。  しかし、身体はまだ生身。斬り付ければ、致命傷とはいかないまでも、大きな損害を与えることはできた。 「大丈夫か?」  続いてアルドルが入って来た。  かなりの腕前を持つとみられるシンは、すぐにデセーオを床へと屈服させる。その首へ剣を突きつけると。 「アルドル! 紐を切れ!」 「分かってる!」  アルドルはすぐにベッドのヘッドへ括りつけられていた紐を切り、自由にしてくれた。  素肌を晒す身体へ、身に着けていたローブを脱いで纏わせてくれる。 「こっちだ!」  シンがデセーオと対峙している間に、アルドルが抱き抱えるようにして部屋から連れ出した。  廊下に出ると、デセーオの兵、闇の神子が立ち向かってくる。  皆、それほどの使い手ではないのか、闇の力より剣に寄ってその行く手を塞ごうとした。 「ったく、うっとうしい!」  そう言って、片っ端からアルドルは切り付けてはそこへ打ち捨てる。  ルークスは闇の力の影響でほとんど身体に力が入らない。それを抱えながらもやってのけるのだから、アルドルもかなりの手練れだった。 「俺も歩ける。下ろしてくれ!」 「バカ言うな! あんた、ろくに力もはいらんだろ?」 「大丈夫だ! 俺にも剣を…!」  横から斬りかかってきた敵に、思わず息を飲む。しかし、目前に迫ったそれを、放たれた矢が防いだ。 「こっち! 早く!」  開け放った入口から弓を放ったのはケオだった。 「すぐ行く!」  アルドルは俺を抱えなおすと、適当に敵を排除しつつ、いっきに駆け抜けた。
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