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「闇の神子の館は?」
オレオルは馬に跨がり、暗い森の先に目を向ける。
「この先です。しかし、奴らも撃って出ている様で。今は炎の部族の者が応戦しております」
「まったく。奴らの親玉はどこにいる? 館にいるのか? ルークスの話しではまだ人の姿をしているようだが…」
「見えてきました! あの屋敷がそうです」
そう言って部下が指示した屋敷は、かなりの時代を経た代物で、廃屋とも見間違う程の建物だった。蔦が城壁を覆い鬱蒼としている。
「さっさと親玉をやって帰りたい所だな…」
うんざりしたようにそう口にした。
光の館に置いてきたルークスを思う。
意識を取り戻せば、なんとしてもあそこを出て、こちらに向かおうとするだろう。
しかし、あの部屋の警備は硬い。それに光の神子の持つ力は使えない様にできていた。
大人しくしているといいが。
ルークスには再び光の守護の力を施した。
次にまた闇が触れても身の安全は確保されている。だが、一度触れられれば解かれてしまう。完全ではない。
その為、ルークスが逃げ出さないよう、厳重に警備させた。
闇の神子はルークスに目をつけたのだろう。
あの光の力を闇に変えれば相当なものになる。しかし。
誰にも触れさせない。あれは──私のものだ。
本人は自覚していないが、ルークスは人を惹きつける。
光の神子は誰もが似たような金髪をしているのに、彼の金糸は光を受けてまばゆく光る。
青い目は透き通り、澄んだ明け方の空の様。肌は白く燐光を放つ。
ルークスは特別だった。闇が彼に目をつけるのは当然だ。
私もうかつだった。単なる調査だと思い込んでいたからな。でなければ、一人でなど行かせなかった。
ふと、先ほどのシンと呼ばれた男を思い出す。ルークスは完全にシンに心を開いていた。思いを向けていた。
それは、自分が得ようとしたものだ。
いつかは身体だけでなくその心も得たいとそう願っていたのに。
邪魔さえ入らなければ、この手に堕ちたはずなのに。それを──。
余計なものと出会わせてしまった。
横合いから突然現れた男に、しかも闇の神子の配下に奪われるなど、あってはならない事だった。
認めない。
なんとしても、二人を引き合わせることを阻止しなければ、そう思った。
「オレオル様、ここは危険です。背後にお下がりください」
前線では闇の神子との戦闘が始まっている様だった。しかし、思ったより敵の手勢が少ない気がするのは気のせいか。
「いい! それより、館の主はどこだ?」
「は! それが…たった今入った報告では、館をたったらしいとのことで…。向かったのここから南西の方角──」
「まさか、光の館か?」
「確かではありませんが…」
「ここはいい! それより光の館にもどる!」
「は!」
隊の長が皆に指示を伝え、すぐに光の館へと踵を返した。
光の館には神子たちがいる。兵が手薄であっても、そう簡単にはやられることはない。
だが、相手の力量を計り切れていない。その主人の力がどれ程のものなのか。
もし、完全に覚醒しているのなら、光の神子が束でかかっても危うい。
それに、館には──。
急いで馬を走らせた。
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