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「おい、待てよ。ルークス」
次の日。朝の光が差す館の廊下を歩いていると、涼やかな声に呼び止められた。
白い長衣を翻し振り返った先には、窓の淵に腰かけ、片腕に薄い水色の長衣を身に着けた見目麗しい女性を抱いた金髪の男が、こちらに目を向けている。
眩しいばかりの金色。夕闇の迫る空のような紫。着ている長衣は輝く様な純白だった。
黙っていれば神代の時代を描いた絵画のよう。
ここ光の館は、光の神子が集う場所でもあるが、各地から集められた神子の卵の養成も兼ねている。
神子は皆、揃いの長衣を身に着けていて、それを頭からすっぽり被り、腰を緩くベルトで留めただけの衣装。男女同じだった。
長衣は足首までかかり、足元は足首までのサンダルを履く。
ただ、色は違って、頂点に立つもの達だけが白となる。後は上から薄い紫色、水色、グレーとなっていた。
その集められた光の神子の中でも、稀有な力を持つ者がいた。
それが今、自分に声をかけてきた者だ。
声の主はオレオル。ルークスより少し年上の光の神子だ。
その能力も去ることながら、目下、神子内での軟派さでも抜きんでている男で。
男女構わず傍らに侍らしている、そちらでも有名な男だった。
先日、オレオルと共にとある調査をするよう指令が下された。其のことで声をかけてきたのだろうか。
「なんだ。オレオル」
「そんな、嫌そうな顔するなよ。ルークス。闇の神子の調査の件、打ち合わせ、今晩どうだい?」
ルークスは深々とため息を吐き出すと。
「…なぜ、夜に? 今日の午後なら開いているが」
「夕食がてら…、いいだろ?」
「夜は空いていない」
「それは残念。じゃあ、午後いつでもいい。都合のつく時間、私の部屋で。…待っているよ」
それだけ言うと、美しい連れとともに、廊下を行こうとする。それを慌てて引き留めた。
「まて、お前の部屋でなくともいいだろう? 打ち合わせなら館の一室で──」
するとオレオルは立ち止まりもせず。
「うん。半分は私の都合かな? これから自室で彼女とデートでね。その後になるからさ。その方が好都合なんだ」
暗にこれから彼女と部屋で過ごすのだと匂わせた。それで、なぜなのか理由を理解する。ため息を飲み込むと。
「分かった。あなたの用が済んでから行くようにする…」
「助かる」
オレオルは微笑むと、そのまま彼女の手を取って廊下の向こうへ消えていった。
まったく。上もどうして彼を選択したのか。
しかし、その理由は明白だ。なんと言っても、オレオルは光の使い手としての技量と能力が格段に優れているからだ。
能力訓練ではいつもダントツの一位。
ルークス自身も引けを取らないつもりでは居るが、やはり彼には一目置く。
しかし。素行と力量は関係ないのだな。
今回の調査は闇の力の復活に関してだった。
今までも幾度か取り沙汰されていたが、決定的な証拠がなく、その復活は認められていなかった。
だが、ある筋の情報で、はっきりと復活の兆しを認めたのだと言う。
この地方の森深くの館で、それは発見された。
見つけたのは地元に住む、炎を司る種族の若者。狩りの為、いつもより森深くに入り込んだ際、廃屋の様な館で、怪しい人影を見た。
そこはもうずいぶん前から人の住む気配のなかった館。持ち主はとうに亡くなり、崩れるの任せていたらしいのだが、その建物の一角に、ひとの気配があったのだという。
若者は不審に思い物陰に隠れ見ていると、黒尽くめの衣装を身に着けた人の足元に、うごめく闇を見た。
その闇の間から、助けを求めるように伸びた人の手を見たのだとか。
すぐに引き返し、それを部族の首長へ報告した。それが巡り巡ってこちらにもたらされたのだった。
「闇の力、か」
光があればまた闇もある。いつかは復活するだろうと言われてはいたが。
やはり光の神子に優れたものが現れたと言う事は、そういう事なのだろうな。
オレオルは人格はともあれ、逸材だった。彼のような力を持つものが、単に生まれただけで済まされるはずがない。
なんとしても、闇がはびこる前に叩かなければ。
調査は早い方がいいと思った。
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