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去った後、漸くゆっくりと息をつくことができた。
「とんだことになったな…」
デセーオが監視の目を向けているのは分かっている。しかし、彼が闇の神子なのか、そうでないのか、見極める必要があった。
容貌から言えば、闇の神子だ。
昔から黒い髪を持つ者は闇に関わるものに限られていた。本人にその気がなくとも、その色から闇に馴染みやすく、結果、引かれていってしまうらしい。
光の神子とは逆だな。
自分はその容姿の影響で光に引かれていった。
先ほどのシンという男も、そうなのだろうか?
闇の髪を持つ男。それは底知れぬ闇ではなかった。その瞳はとても澄んで見えた。
好感を持った欲目ではなく、確かにそれを感じ取ることができた。
しかし、主人のデセーオからは闇を強く感じる。
例え明確な証拠がなくとも、闇の気配を本能で感じていた。
俺に探らせると言う事は、そう簡単には分からないということだろうが。
その痕跡をたどる必要があった。
「っ…」
と、頬に痛みを感じて、思わず声を漏らす。先ほど崖から落ちた時にできたという、傷が引きつれたのだ。
軽いノックの音がして、再びシンが訪れた。
「部屋の準備ができたので、案内させていた
だきます──」
先ほどより恭しい態度で入室してきたが、ルークスが頬を押さえているのを目にとめて、すぐに駆け寄った。
「ああ、触れてはダメだ。少しまて…」
言うと、手近にあった箱から薬とガーゼを取り出す。軽く薬を添付した後、ガーゼをそっと乗せ、それを落ちないようテープで貼り付けた。
「しばらく痛むだろうが、こうしておけば傷にはならない。…綺麗な顔に痣は作りたくないならな?」
最後は笑って見せた。
「綺麗などではないさ。とっくに汚れている…」
自嘲の笑みを浮かべ、シンの言葉を遮った。
シンは不思議そうな顔をして見せたが、それ以上は口にはせず。
「部屋へ向かう前に彼らはどうしている? 自由にしてくれるのだろう?」
アルドルとケオの様子が心配だった。
「…ああ。大丈夫だ。ここに残る許可が下りたのはあなただけだ。だが、本来であれば残って欲しくはなかった…。もう少し、俺が気を付けていれば」
「面白いな。シン。もしかしたら、君にも害をなすかもしれない俺を、救おうとするのか?」
するとシンはふいと視線を背け。
「主人のおもちゃにされるのを黙って見ていたくはない…」
「おもちゃ、か。だが、そうなる前に退散するつもりだ。とりあえず、彼らに合わせてくれ」
「分かった…。あなたは部屋で待っていてくれ。そこへ二人を連れて行く」
そう言うと、おもむろにルークスの傍らに立って、背中と足裏へ腕を回してきた。抱き上げようと言うのだ。
「シン?」
「まだ身体が痛むはずだ。多少の打撲は残っている。抱えさせてくれ」
確かに僅かに身体が痛む気はするが、さすがにこの歳では気恥ずかしい。
しかし、シンは躊躇うことなく抱き上げ、胸元へ抱える。互いの体温が触れた箇所から伝わり、酷く身近に感じる。なんとも言えず照れくさくなった。
今更、こんなことくらいで。
何を意識しているのだと思うが、それはきっと相手がこのシンだからだろう。
他の誰かだったら気にもとめないはず。まして、ライオに抱き締められた時とも違う。
俺はいったい…。
揺られるシンの腕の中はなぜか居心地が良かった。
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