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7.またもや霊次郎
「なあ、どうやったんだよ」
懐中電灯とありったけの電池をリュックに詰めている魔美子に、霊次郎はそう尋ねた。
「仕事中にナンパしてんじゃねえよ金髪ハイエナ」
これで暗闇ともおさらばだ、と嬉しそうに笑いながら魔美子が返すと、
「ナンパじゃねえだろどう見ても。なあ、同郷のよしみで教えろよ」
と霊次郎は顔を近づけた。
「ヨシミって誰だよ」
「誰でもねえよ。どうやってアイスを連続で当てたのか聞いてんだよ」
「はん。今日は気分がいいから特別に教えてやろーじゃん?」
「おう」
霊次郎が目を輝かせると、魔美子はリュックからアイスの当たり棒を取り出して見せた。
「私はこう見えて昔から手先が器用だ。こうやってハズレのアイス棒に自作の焼き印をつけてリュックに隠し持ってた。外のベンチでアイスを食べて、その後お前にこれを見せに来てたのさ」
「な、何本あったと思ってんだ!」
「さあ、事前に三十本くらいは作って持ってたかな。出来のいい焼き印ひとつ作っちゃえば後はこっちのもんよ」
「まじかよお前、天才か!?」
「おかげで腹ん中がツクツクボーシ海みたいになったけどな!」
「オホーツク海か?流氷ってことか?まじすげえ、信じらんねえ、やっぱお前奇想天外だな」
だが納得はいった、という顔で霊次郎は口端を捻りあげた。やはりこいつはイカサマをしてやがったわけだ!
だが、
「もちろん処分したからもう証拠は残ってねーよ?」
霊次郎の心を先読み視した魔美子の左眉が持ち上がる。
「これが最後の一本だ。それとも昨日のゴミ袋漁って回収してくるか?そいで指紋でもとるか、なあ、なあ」
「お前なあ」
昨日のゴミはすでに業者が持っていった後だ。
「どうだい、もう一本バラバラくんを持って来てくれるか?ビオフェルミンを飲んだから多分あと一、二本はいけるね」
「ふざけんな!」
いつまで経っても無駄話をやめない二人に他の客たちが騒ぎ始めた。するとまた滑山がバックヤードから出て来て、魔美子と霊次郎を睨みながらもう一台のレジを開けた。
「それよりお前、電気止められてんのか」
小声で霊次郎が聞いた。
「そうなの、哀れな淑女なの」
「何やってんだよお前」
するとリュックに電池を詰める手を止め、魔美子は顔を上げて霊次郎を睨んだ。
「どっかの馬鹿がうちの爺ちゃんがくれた金使い込んだからだろお?」
「うるせえなぁ、何年前の話持ち出すんだよ」
「あ、お前、言っていいことと悪いとことが」
「噓です、噓です、すみませんでした」
霊次郎は頭を下げ、
「絶対返しますんで、へえ、爺様には黙っててくだせえ、まだ死にたくねえっす」
と、レジカウンターに両手をついて立ち土下座のポーズ。
「ふん、聞き飽きたよもう、お前の薄い頭のてっぺんだって見飽きたね」
「薄くねえし。だからこうして毎日コンビニでバイトしてんだろ!」
「最近は本業じゃ稼げてないもんな」
「っせーな!」
「ほな」
「チ……あれ?おい」
「何だよまだ何かあんのかよ」
勢いよくリュックを背負いながら、魔美子は霊次郎のしつこさに怒りで顔を歪ませた。
「でも何でお前、昨日だって分かったんだよ」
霊次郎の問いに、魔美子はニヒルな笑みを浮かべた。
「アイスの当たり棒はお前が夜なべしてこしらえたってことでいいよ。でも、腹壊す程喰うと分かってて、何で昨日決行に移したんだ? あの雑誌コーナーで立ち読みしてた変な女はほぼ毎日うちの店を利用してる。それなのに前の日でも次の日でもなく、なんで昨日だったんだ?」
「フフ、分からんか。だったら答えは風に訊け!」
魔美子は言い残し、颯爽と身を翻してコンビニの出入り口に向かった。レジカウンターには一組の乾電池パックが取り残されていた。霊次郎は電池を拾い上げ、魔美子の背中に向けてこう言い放った。
「これ買うくらいなら滞納してる電気代払った方がなんぼかマシじゃね?」
魔美子は膝から崩れ落ちた。
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