こどくのおうさま

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こどくのおうさま

「なんでお前はこんなことも出来ないんだ」 失望した父さんの声は99と表記された紙に注がれていた。 「……………ごめんなさい」 父さんは完璧だ。仕事も、容姿も、学力も、収入も、全部。 だから、俺は父さんみたいになりたかった。父さんに認めてもらいたかった。なのに、 「……もういい、お前には失望した」 「……………ッ!!」 呼吸がうまくできない。吸っても、吸っても、足りない。 「なんだ、見苦しい」 父さんは冷え切った目で俺を見る。 「ご、ごめんなさい!!!次は、次は絶対父さんの望む結果を出すから!!!!!だから、だから待ってくださいッッッ!!!」 「もう、聞き飽きた」 告げられた言葉は感情も興味もない、酷く無機質なものだった。     そこから先は、覚えていない 勉強しなきゃ。 練習しなきゃ。 常に一番でいなきゃ。 だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、 こんなのじゃ、 こんな結果じゃ、     父さんは認めてくれない 全部捨ててきた。 全部蹴落としてきた。 ライバルも、友人も、全部、全部。 全ては父さんに認めてもらうため。 でも、結果を出せなかったから見離された。 後ろを振り返ると何もなかった。 大切に包んでいた手を開いても、何もなかった。 いつか本で読んだ。 一つの壺の中に様々な種類の毒虫を入れる。数は100だったか、1000だったか、詳しい事は覚えていないが、一つだけはっきりと覚えているのは、殺し合い、死に絶え、たった一匹が生き残ったとき、 それは『蠱毒』と呼ばれるらしい。 俺は微かに苦笑した。それが俺か、と。 もう、疲れた。 ふと、先日死んだ友人達の事を思い出した。 ドロドロの花弁で気道をふさがれ、甘い香りと腐臭の中で死んだ少女。 彼女の死の後を追う様に、彼女の死んだ屋上から飛び降りた少年。 二人が死んでから、初めて彼らが酷いネグレクトを受けていたと知った。 だから、聴きたくなった。 どんな気持ちで毎日を生き、死んだのか。 でも、死ぬときの気持ちは少し理解できた気がする。 優しく、甘やかな感覚。 初めて正しい姿勢を崩し、ベランダの柵の上に座る。 地上25階。見下ろすと、町が一望できた。 トンッ 軽く勢いを付け、空に飛び込む。 くるくると回る世界は鮮やかで、素晴らくて、美しい。 だから、この素晴らしい世界で彼と彼女が選んだ『死』という選択肢は一つの美しい解のカタチだとわかった。 「あはっ、あははははははははっ!」 全てから開放される。      何よりも甘美な感覚。
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