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机周りの大洪水はなかなかの水量で、一回雑巾絞ってこなきゃかな、と立ち上がったときだった。
あたしの前に、頬を紅潮させた委員長が立ちふさがった。手にはなにやら、長い棒を携えて。
「ゆ、ゆずりは、ちゃん」
上ずった声で、言ってきた。
「モップ、持ってきました!」
……どうしよう。
バカがここにもいた。
◆
その日一日、何故か判らないし判りたくもない気もするけれど、委員長こと柏木遥はあたしにくっついていた。
「……あのさ」
「はい?」
お昼。
いつもどおり教室で、ひとりでお弁当を広げているあたしの前で、何故か委員長がお弁当を広げて座っていた。
いかん。頭痛がする。
「……なんで、って聞いても答えないよね?」
「え? 答えますよ?」
心外な、と言う表情で委員長は目をぱちくりさせ、
「一緒にごはん食べたいからですよ?」
……答えにならない答えを告げる。
正直なところ、この手のバカといえば代表者奏人がいるわけだけども、上手くあしらえた記憶がなかったりする。どうもあたしは、この手の人種に弱いらしい。
どうしたらいいのか判らないまま、無言で玉子焼きを口に運ぶ。
そうする間にも、外野からのざわめきが耳に入っていた。
……だから、さ。こういうのがあるから、あたしになんて近づくべきじゃないのに。言ったって、どうせ変わらないんだろうと、あたしはため息だけついて、お弁当を消化するのに専念した。
◆
夕方。なんとか委員長をまいたあたしは帰路に着いた。
いつものバス停で降りる。ここから右に行けば商店街。左に行けば入り組んだ路地。あたしの家は商店街を抜けていくほうが近い。
ただ、高校に入ってからは遠回りして帰っていた。商店街は、見知った顔に会いそうであんまり近づきたくなかった。理由は自分でも良く判らないけど、見知った顔に会うのがなんだかしんどかったから。
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