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だから、商店街に足を踏み入れるのは、お使いを頼まれたときとか、郷屋のあのシュークリームが恋しくなったときか、どっちかだった。
さて。今日はどうするか。
小腹は別にそんなにすいてない。ただ、口は甘いものを欲している。
……でもなあ。こないだ食べたばっかしだし、太るかな。
なんて、バス停でしばらく考え込む。その頭上から、
「ゆずちゃん?」
……またか。
思わずがっくりうなだれて、仕方なしに振り返る。
制服姿の奏人が、目をぱちくりさせて立っていた。
「……なんか最近、遭遇率が急に上がった気がするんですけど、ストーカー?」
「え? 違うよ、僕もいま帰り道。おなじバスだったよ、気づかなかった?」
「……気づかなかった。っていうか、だったら帰りゃいいじゃん。なんで立ってるの」
「ゆずちゃんこそ。帰らないの?」
心底不思議そうに問われて、思わず言葉につまる。
実は、遭遇率はこっちが減らしていた感もある。奏人も商店街を通って帰るのが通学路で、あたしがそっちを避けてたんだからそうなるだろう。あと考えられるのは……
「あんた部活やってる?」
「うん。やってるよ、社会部。今はテスト前で休みだけど」
「おっけ、把握した」
頷く。部活やってないあたしと部活やってる奏人じゃ、普段はかぶらないんだろう。この時期は、残念ながらかぶるわけだけど。
「ゆずちゃん、なんか悩み?」
「あんたとの遭遇率を下げる方法をちょっと」
「えー」
「えー、じゃない。あたし帰る」
「あ、待って待ってゆずちゃん。郷屋、おごるから。一緒に帰ろう」
……う。
この野郎。物で釣ろうってか。生意気な。
瞬間的にそんな言葉が脳裏を横切るけど、あたしはものすごく不服な顔をしたまま、こく、と頷いていた。
だって郷屋のシュークリーム、美味しいんだもん……。
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