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「ゆずちゃん、あぶないよ!」
「うきゃっ」
後ろから急に腕を掴まれて、あたしは思わず素っ頓狂な声を上げていた。振り返る。
「なにっ!」
「ごめん、びっくりさせちゃった。でもね、危なかったんだ、ほら。ゆずちゃん」
奏人は困ったように笑って、そっと道の隅を指差した。
「踏んじゃいそうだったから……」
「また、それ?」
ぎろりと、奏人をにらみあげる。
わたしが奏人を嫌いな理由――は、まぁイロイロほんとイロイロ雑多に豊富にあるわけだけど、その代表的なのがこれだった。
「あんたまだ、そういうバカ言ってるの?」
「だって、いるから……」
困り笑いしながら、道の端を指差す奏人。もちろんその先には何もない。あるわけない。もしかしたら目をよーく凝らせばアリぐらいはいるかもしれないけど、奏人が指しているのはアリではない。
スカートをはたきながら立ち上がる。
「いるいるいるって、そういうオカルトじみた、非科学的なこと、あたしキライって何度も何度も言ってるじゃん」
「非科学的かもしれないけど、オカルトじゃないよ」
「じゃあなによ」
むすっとした顔で問いかけるあたしに、奏人は空気を読まない笑顔で言い切った。
「神さま!」
「だからそれをオカルトっていうのっ!」
小声で叫ぶ、という我ながらなかなか器用なことをして、あたしは再度歩き出す。
そうなんだ。
奏人――森繁奏人は昔っからこうだった。自称『神さまが見える』らしい。宗教じゃない。ただ、自然と見えるんだと笑って言う。小さい頃はあたしだって信じてたさ。特にこのあたりは古臭い土地のせいか、氏神様だとかなんだとか、そういうのを否定しない土地柄だから、見えると言う奏人も大人たちからチヤホヤされてたくらいだった。そうだ。小さい頃は別にいいんだ、それだって。
ただ――
「あんた高一になってまでそれ言い続けてたら、本気で頭おかしいヤツだよ」
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