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「ゆずちゃんひどい」
「ひどくない、普通!」
あたしの言葉に、ちょっとだけ困ったように微笑んで。
それから、恐る恐ると言った様子で奏人はこう切り出した。
「ゆずちゃん。あの場所でシュークリーム食べない?」
◆
あたし、加納柚李葉、十五歳にはキライなものがいっぱいある。
例えばバカとか、ばかばかしいヤツ。
あたし、加納柚李葉、十五歳には好きなものもひとつだけある。
それが――
「ゆずちゃん、ほんと郷屋のシュークリーム好きだよねえ」
奏人がなんだか嬉しそうに呟いた。
……そう。商店街の一角にある、ちいさな洋菓子店『郷屋』のシュークリーム。あたしはこれに目がなかった。好き。超好き。やばい。決して有名じゃない、ホント地元のちいさなお店のクセに、味がはんぱなく美味いんだもん。
粉糖のかかったシューの表面は、さくっとしてて歯ごたえがあるのに、その下はむしろふわっとしていてやわらかい。シューだけでもほんのり甘いくせに、べたべたしてない程よい甘みと香ばしさ。そしてシューに包まれたクリームは、ホイップとカスタードの二層だ。単独だとむしろ甘みがあまりないホイップと、卵の風味が活きているカスタード。そこにアクセントとして香るバニラビーンズがたまらない。このホイップとカスタードが、二層のクセに分離しないで交じり合って舌の上を踊るもんだから、もう、もう――
「好き」
「うん。知ってる」
きっぱりはっきり頷いて、奏人は目を細めながら自分も一口、ほおばった。
あの場所。
それはあたしと奏人の昔っからのお気に入りの場所だ。商店街を抜けて、山側へ少し歩いていく。田んぼの前を横切って、神社近くの森を上がってすぐのところ。ちいさな浅い川が流れる場所だった。
ひさしぶりだな、ここ。
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