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なんて、あたしがちょっとボンヤリするうちに、奏人は慣れた様子で近くの岩に腰掛けて、あたしを手招きした。緑の匂いがむんっと漂う中だと、バニラの匂いはちょっぴし掻き消されちゃってもったいない気もするのだけれど、あたしは不思議と、この場所でシュークリームを頬張るのが好きだった。
「奏人、まだここ、来てるの?」
「うん。よく来るよ。ここ好きなんだ」
「そう」
あたしは久しぶりだった。
幼稚園、小学校、中学校と、あたしと奏人は大概一緒に過ごしてきた。神さまが見える、なんてバカな事言い続ける奏人に、あたしはよく付き合っていたもんだと自分で思う。幼馴染の腐れ縁って、なかなか怖い。
けど、高校は別々になった。あたしより奏人のが頭が良かったのが大きな原因だ。
七月。高校に入って最初の期末がもうじきやってくる。そんな時期に、あたしたちは久しぶりに再会したんだ。
だから、だと思う。
正直会いたくなかったんだけど、あたしは誘われるがままこの場所に来て、こうして並んでシュークリームを頬張っている。
「ゆずちゃん、もうすぐ試験?」
「……言うかね、それを」
「あ、ごめん」
「あーもー、もー、美味しくシュークリーム食べてるんだから思い出させないでよね」
「ごめんー」
笑う奏人の頭上を、ざあっと風が吹き抜けていく。
ふっと表情を変え、頭上に目をやり、奏人は嬉しそうにこちらを振り向いた。
「ゆずちゃん、いま」
「……神さまネタなし」
「え。……えー」
やっぱそうか。この野郎。
「あんたホント頭おかしいって思われるよ、高校で。大丈夫なの、そんなんで」
「言わないよ」
「え?」
きっぱり断言されて、あたしは思わず目を瞬いた。
「言わない?」
「うん。言わない。高校入ってからは他の人には言ってないよ」
「……じゃーなんであたしには言うのさ」
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