あした、シュークリーム日和。

5/41
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
「ゆずちゃんだから。ゆずちゃんだったら、別に大丈夫だから」  ――。  なんと言えばいいのか判らなくて。  あたしは二度、三度、と口をパクパクさせた。金魚みたいだ。それでも言葉が出てこなくて、結局何とかひねり出したのは一言だけだった。 「ばか」  言うだけ言って、シュークリームの最後のひとかけを口の中に放り込んで。  あたしはすっくと立ち上がって歩き出した。背中に、奏人の声がかかる。 「ゆずちゃん、またね」 ◆  家に帰って、制服を脱いで、あたしはベッドに横たわる。  大きく息を吐いた。  なんかまだ、頭がボンヤリしてる。  奏人は無条件にやさしい。それは別にあたしに対してというわけじゃなくて、誰に対してもだ。あたしはそれが、偽善に思えてうっとうしくて、中学ごろから奏人を疎ましく思うようになった。神さまなんて信じてるところも、見えるなんて言っちゃうところも、無駄に人にやさしくて騙されやすいところも、みんな大嫌いになった。  それなのに、なんでだろう。あたし、奏人に会えてちょっとほっとしているみたいだ。 「……ばかばかしい」  軽く頭を振って立ち上がり、あたしは鞄を開けた。課題が出てるから、やっつけなきゃいけない。  机の上に教科書を広げると、教科書と教科書の間から一枚の紙が出てきた。 『キモイ、死ね!』 「……」  しばらく無言で眺めて、それからはぁっと大きなため息が出た。 「ばかばかしい」  呟いて、紙切れを手でちぎってゴミ箱に捨てる。  何でだろうなぁ、と思う。どうしてこの年になってまで、こんな陰湿で頭の弱そうな真似が出来るんだろう。大体キモイってなんだキモイって。  そう。どういうわけか、高校生になったあたしはこういう攻撃の的になっていた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!