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「ゆずちゃんだから。ゆずちゃんだったら、別に大丈夫だから」
――。
なんと言えばいいのか判らなくて。
あたしは二度、三度、と口をパクパクさせた。金魚みたいだ。それでも言葉が出てこなくて、結局何とかひねり出したのは一言だけだった。
「ばか」
言うだけ言って、シュークリームの最後のひとかけを口の中に放り込んで。
あたしはすっくと立ち上がって歩き出した。背中に、奏人の声がかかる。
「ゆずちゃん、またね」
◆
家に帰って、制服を脱いで、あたしはベッドに横たわる。
大きく息を吐いた。
なんかまだ、頭がボンヤリしてる。
奏人は無条件にやさしい。それは別にあたしに対してというわけじゃなくて、誰に対してもだ。あたしはそれが、偽善に思えてうっとうしくて、中学ごろから奏人を疎ましく思うようになった。神さまなんて信じてるところも、見えるなんて言っちゃうところも、無駄に人にやさしくて騙されやすいところも、みんな大嫌いになった。
それなのに、なんでだろう。あたし、奏人に会えてちょっとほっとしているみたいだ。
「……ばかばかしい」
軽く頭を振って立ち上がり、あたしは鞄を開けた。課題が出てるから、やっつけなきゃいけない。
机の上に教科書を広げると、教科書と教科書の間から一枚の紙が出てきた。
『キモイ、死ね!』
「……」
しばらく無言で眺めて、それからはぁっと大きなため息が出た。
「ばかばかしい」
呟いて、紙切れを手でちぎってゴミ箱に捨てる。
何でだろうなぁ、と思う。どうしてこの年になってまで、こんな陰湿で頭の弱そうな真似が出来るんだろう。大体キモイってなんだキモイって。
そう。どういうわけか、高校生になったあたしはこういう攻撃の的になっていた。
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