プロローグ

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 少しだけ悪臭が漂ってきた。  元は優しい人の家だったけど、今ではゴミ屋敷だった。  住んでいた人は昔は綺麗好きだったとか、収集家だったとか、三年前から色々と言われるようになっていた。  ぼくも顔を知っている。  岩見さんは、とても良い人だった……。  そうだ。  ぼくの頭を良く撫でてくれたし。  袋一杯のお菓子をくれたこともあった。    三年前のあの皺だらけで柔らかい笑顔は今でも忘れていない。 「ここから入ってみよう」 「うん」 「もう誰もいないんだし」 「そうだね」  ポリ袋の山をどかして家の中に入る。  家の中は意外なほど綺麗だった。  片付けられていて。それでいて、生活感がある。  台所の真ん中にあるちゃぶ台の上には、湯気の立つ急須が置いてあった。 「あれ? 誰のだ?」 「ねえ! すぐに帰った方がいいかも!」 「なんで?」 「だって、ここって……」  岩見さんは、どこからかの落下事故で死んだ。  それも家の中で。  最初は高い箪笥や梯子か階段から落ちたのだろうと言われていた。  けれど、異様だったんだ。  死体の損傷が激しく。  まるで、歯車に挟まって顔と身体の肉片全てがねじ曲がったかのようだった。     実際見たんじゃない。  けれど、遺体の写真が……。  写真のことはだいたいみんな知っているんだ。  なんでかというと、町中にばら撒かれていたんだ。  それで、町中が悲鳴を上げた。  お巡りさんもお医者さんも今でも事件調査や遺体の不可解さに躍起になっていた。  知らない人はごく一部はいた。  写真はモノクロだったからだ。  怖くてか、興味がなくて、見たがらない人がいたんだ……。
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