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4月11日
旦那様宛の手紙を整理している時に、お医者様からの封書を見つけた。
どうやら私の診断書のようだったので、こっそりと読んでしまった。
やはり、お医者様からの診断は、記憶回路交換の必要あり。
月に1度の定期検査で、もう3度も同じ診断が出されている。
嫌な考えが頭を過ぎってしまう。
昼食後、自室で読書されている旦那様のお部屋を訪ねると、笑顔で迎え入れてくれた。
いつも優しい旦那様。ユメは私達の家族だ、なんて仰ってくださったこともある。
マスターである旦那様に嘘をつくことは禁止事項の1つだ。なので、正直に診断書のことを話し、疑問に思ったことを尋ねてみた。
旦那様は驚きはしたものの、私の行動を咎めることはしなかった。それどころか「黙っていて悪かった」と丁寧に頭を下げられて戸惑ってしまう。頭を下げるべきなのは私の方なのに。
ユメの不具合を直してあげたいけれど、記憶がなくなってしまう。
それは私も悲しい。
だけど、私以上に落ち込んでしまう人間が居る。
旦那様がその時仰っていたのは、こういった内容だった。
この屋敷には、旦那様、奥様、坊ちゃましか人間は居ない。
考えては止め、考えて…それを繰り返してしまう。悲しい、嬉しい、そのどれにも当てはまらない様な、この感情はなんなのだろう。
私の「心」と呼ばれる部分は今、プログラミングされたものとは違った挙動をしている。
旦那様は記憶回路以外の不具合はないと仰っていた。本当に?
ソウスケさんと一緒に水やりをしている時にも、私の頭はずっとぐるぐるしていた。
そのため思わず「私は修理に出されず処分されてしまうのでしょうか」と口から出てしまった。
どうしてです、と聞かれたので診断書のことを説明すると、ソウスケさんは目元のシワをさらに深めて微笑み、「そのようなことは絶対にありえませんよ」ときっぱり言い切った。
理由を尋ねたが、まぁそのうちわかるでしょう、なんてはぐらかされてしまう。
私はただの機械。言ってしまえば家電製品とだって変わりない。
廃棄も回路の交換も仕方のないことだけど、どちらも避けたいと思ってしまう私は、やっぱり壊れてしまっているのだろう。
今日はなんだか色々考えて疲れてしまった。
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