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「まさか『モブ』がそういう意味だとは思いませんでしたよねえ」
モブもサクラも名前ではないという説明を聞いて、大きな勘違いにようやく気付いたシリアン様と俺だった。
「家名だと言ったのはテリーだろう。モブ家の家訓はどうのこうのとか、どんな思い込みだ一体。継母もいないらしいじゃないか」
「なにをおっしゃいます!そもそも、彼女の名前はサクラ・デ・モブだと最初に言ったのはあなたですよ?」
シリアン様と顔を見合わせて…思わず笑ってしまった。
今となっては、その勘違いのまま会話が成立していたのが可笑しくてたまらない。
思いがけない親子の邂逅と、その後の彼女のしどろもどろな説明、そして父親の混乱――挙句の果てに、シリアン様がその場で「あなたの息子にしてください」と頭を下げて、「お父様、お父様」といつもの強引な朗らかさで迫ったものだから、父親は倒れそうになっていた。
そして「今日はもう仕事が手につかない、すぐに妻と話し合わなければならない」と言う理由で父親は早退することになった。
その父親と共に馬車に乗り込もうとした彼女を、シリアン様が引き留める。
「結婚を反対されてしまうだろうか…」
「大丈夫じゃないですかね、お断りするという選択肢は、我が家にはないと思います。いろいろと話し合わなければならないことは山積していますけど」
その言葉を聞いて、ホッとした様子のシリアン様が嬉しそうに笑って彼女を抱きしめた。
「改めてきみの口から、名前を聞かせてもらえないか」
彼女は、うふふっと笑い、シリアン様を真っすぐ見上げて言った。
「わたしの名前は―――」
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