しがない男爵家

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しがない男爵家

 我が家はしがない男爵家だ。  男爵という爵位は名ばかりで領地も持たず、父は王城で文官として働いている、いわゆる「宮廷貴族」というやつだ。  同じ宮廷貴族の中には、広大な領地を王国に返納し、その見返りとして毎年多額の年金を受け取っている悠々自適な家も多いのだけれど、大昔の戦争で武勲をあげたご先祖様が男爵位を賜っただけで、領地など持ったことのない我が家だ。  そのときに一代限りで爵位を返上でもしてくれればよかったのに、何の見栄か世襲が続いている。  父は、男爵位があるからこそ王城で働けるのだと言うけれど…。  当然年金などもらえるわけもなく、父の給金だけでは妻と三人の子供を養っていくには苦しいために、家の庭を耕して薬草を育てて薬屋に売ることで生活の足しにしている状態だ。  そう、回りくどい言い方をしてしまったけれど、つまり我が家は貧乏なんです!  元は母が庭で細々とハーブを育て、それをラミという薬師に納入していたのをわたしが引き継いだのは、年の離れた双子の弟たちが生まれた時だ。  当時私はまだ学生だったのだけれど、とてもじゃないが「勉強に専念」なんて言っていられる状況ではなく、朝ハーブを摘みとってラミの薬屋に持っていき、その足で学校に通った。  我が国には、運営費の大半を国が賄っている平民用の学校と、親から多額の学費と寄付金を搾り取る貴族用の学校がある。  わたしは平民用の学校で良かったのだけれど、それは父に猛反対された。  そこだけは貴族としての矜持があるから譲れないのだという。  授業の合間の休み時間には学校の図書室でハーブや薬効の高い植物の図鑑や栽培方法を読み漁り、下校途中に食材を買って家に帰ると、ハーブのお世話をした後、夕飯の支度を手伝うか弟たちの子守をするという目の回るような生活を送った。  決して嫌々やっていたわけではなく、弟たちはとても可愛かったし、母の力になりたい一心だった。
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