雨の日のデート

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 到着した靴屋は開店前だった。  しまった、家から畑まで早足で歩いたから思った以上に早く着いてしまったらしい。  ここまでの道中、靴の修理代金をシリアン様に払っていただく義理はないと訴えたのだけれど、真顔で「義理なら有り余るほどにある」と返されてしまった。    夜会でのボヤ騒ぎがなければヒールを折ることもなかったはずで、主催者である自分が弁償するのは当然だ。本来ならば修理ではなく新品の靴を贈りたいところだが、慎ましやかなきみはそれをよしとしないだろうから、修理代金はもちろんこちらが支払う、というその主張は確かにもっともで、頑なに拒否すれば逆にシリアン様に恥をかかせてしまうことになるため渋々了承した。   「店先で開店を待ち構えるのも何だから、あそこのカフェで待つことにしよう」  コーヒーを飲んでから出勤する人や、夜勤明けで朝食を摂る人のために早い時間から開店しているカフェに向かってスタスタと歩みを進めるシリアン様をぽかんと眺めていたら、「さあ、我々も参りましょう」とテリーに笑顔で背中を押され、断る機会を逸してしまった。
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