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「那津。オランダが優勝した。お前の決めたとおり、俺たち別れよう。今日の夜、荷物をまとめて部屋を出ていくよ。今までありがとな……」
「嫌だ。別れたくない」
「何いってんだよ、約束だろ。俺は賭け事で負けたんだ。潔く引くよ」
「別れたくないって言ってるの!私は神楽と一緒にいたいんだよ。あんなの口約束でしょ?撤回するわ」
「那津、お前……。本当か?」
俺が泣きそうになりながら尋ねると、那津は笑顔で頷いた。
「うん。今回のワールドカップを一緒に見ててね、楽しかったの。サッカーは共通の趣味だし。途中からもう別れる気なんて失せて、たとえオランダが優勝しても交際続けたいって。でも最後の結果見て、あなたに伝えようと思ってたから、ずっと黙ってた。ヒヤヒヤさせてごめんね」
「マジかあ。それ聞いてホッとしたわ。決勝戦は本当にドキドキした。ガチで別れたくないと思いながらベルギー応援してたわ」
「フフ。ベルギーも強かったけど、最後のPKは今一つね。オランダが真の強さを発揮した大会だったのよ」
そう威張る那津は、自身が応援していた国が勝って嬉しそうだった。
「そうだな。じゃあ今日の夜は鍋食べるか。オランダの初優勝を祝ってさ」
「いいわね。私、仕事帰りにスーパーで材料買ってくるよ」
「おう、頼んだ」
こうして俺たちは元の関係を取り戻し、一時期は別れの危機に直面したものの、カタールワールドカップが2人の絆を繋いでくれたのだった。
決勝戦で俺がドキドキした理由。
それはオランダが優勝した場合、恋人との別れを覚悟していたから。そうなるのは絶対に嫌だったので、全力で推しのベルギーを応援していた。
でも結局、那津は本気で別れる気なんかなかったわけで、どこが勝っても俺たちは仲直りできたんだと思う。本当にワールドカップのおかげだ。
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