理解者の慈愛

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理解者の慈愛

「分かりました」  淡白な返しだ。心配してくれて散歩に誘ってくれている人に発するべき単語、声色、態度ではないと頭では理解している。頭で理解しているからと言って、全てを理想通り表現出来るほど、俺は器用な人間では無いらしい。  シャルルさんは、買ってきたものを整理し終わると、階段の麓に行き大きな声でララに伝えた。 「ララ様! 我々は少し出かけてきますのでご自由に台所にある食料をお食べください!」  俺も何か声をかけたかったが、今の俺にかけれる言葉などあるわけがないと悟り、シャルルさんと共に、ひんやり涼しい夜のシュメイラルの街に出た。  ――グレーを基調として差し色にカラフルな小石が綺麗に散りばめらた石畳のメインストリートを二人で黙々と歩いていく。  シュメイラル中心街に立ち並ぶ建物は大理石をふんだんに使用した外壁で、その一軒一軒にぶら下がる、ランタンが道の最後まで無数に連なり幻想的な街並みを煌びやかにライトアップしている。  しかし俺の気持ちはこのランタンのように輝かない。  燃料が切れたことで、背が高いだけの取り柄しかない鉄の街灯のように冷たく暗闇に加担している。  道を走り去る高級な装飾がされた馬車。プレゼントを買ってもらい両親と笑う幼い命。  街に溢れる人々の笑顔が眩しい。昼間でもないのに、何故こんなにも目を瞑りたくなるのだろう。  その答えは分かっている。  自分の役割、生きる意味を理解して生きている人間は眩しく感じるんだ。  この世界に来た時点で俺は死んでいるんじゃ無いか。  そんな後ろ向きな考えで脳内を満たしている。 「ここでいいわ。少し腰掛けましょうか」  どれだけ歩いたのかは覚えていない。  そこは王国のキラキラした街並みが一望出来る小高い丘だった。  しかし、その感想を抱いた時点で俺は下しか見えていなかった。 「今日は星が綺麗ね」  その言葉で反射的に上を見る。  そこには、暗闇の大海原で互いを照らし合いながら共存する数多の星が浮かんでいた。 「――昨日はごめんなさいね」  ララに最後言われた言葉が浮かぶ。 「いえ、俺こそあそこまでやるつもりはありませんでした。すいません」  これはララに言われたから仕方なく言っているのかすら分からなくなっていた。 「……何があったかお姉さんにも説明してくれる? あんまし言いたく無いけど、あなたよりはちょっぴり長く生きてるんだから頼りなさい」  俺はそこで初めてこの世界の人間に異世界から来た事、記憶が曖昧な事、ララを探していた事、そしてさっきララと話した内容を話した。 「そっか、異世界の人間ねー」  飄々とした顔で当然かの如く言い放った彼女はやはり他の人とは違う精神力の持ち主だと思った。 「怖くないんですか?」 「別にー? ララ様や坊やの力を見たら逆にこの世のものと思う方が難しかったから、むしろ合点がいって清々しい気持ちでさえいるわよ」 「坊や、いえ……ルークス。私にもあなたの苦しみを背負わせてはくれないかしら」  シャルルさんの優しく愛にみちた言葉が、冷え切りっていた心に染み渡る。
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