『華姫』と呼ばれた女

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『華姫』と呼ばれた女

「は?」 この一文字に全ての感情を乗せることが出来た。 「全部Fって……そんな事ありえるんですか!?」 「ごめんなさい。アタシも長いことギルドに関わってるけど、今回のルークスちんの様な結果は、残念ながら見たことが無いわ。」 「そう、ですか」   様々な考えが頭を巡る。 無適性で勇者にはなれるのか? そもそも勇者ってどうやってなるんだ?   俺の直感的推測だと、多分あの女神は、俺が前代未聞の無適性として異世界に召喚された事を知っていると思う。 ただ、そうなるとあの性悪女神は何故俺を選んだ? もしもこの世界に女神が倒してほしいと欲する敵が居るのであれば、オールFの無適性をコツコツ育てて勇者にするよりも、シャルルさんのようなA適性の天才を育てた方が、遙かに効率的かつお利口さんだ。 それか文字通り、神のみぞ知る何か理由があるのか。 「ルークス。と、とりあえず上でご飯でも食べましょ! 私奢るからさ!」 明らかに気を遣われているのが分かったが、そんなキアの気持ちが今の惨めな俺には嬉しく感じ、階段を登った。 ーー「あんた、ルークスちんについてどう思う?こんな事言うのは癪だけど、数少ない適性Aを持つあんたなら何か分かったんじゃないの?」 「そうね。あの坊やには気になる点があるわ。」 「さっきあの坊やに抱きついた時、を感じたの。そして同じ感覚を以前、から感じた事がある。」 「あの子?」 「  よ」 「八年前の後、オスタリア王国がシュメイラルに侵攻してきたのは覚えているわね?」 「当たり前でしょ、あの戦争で何人の仲間や友人が何人死んだと思ってるのよ」 「その戦争で、シュメイラル王国の勝利に最も貢献、一輪の花が風に靡くかの如き可憐な戦いと美貌から『華姫』と呼ばれたが、その後颯爽と姿を消した人物」 「そんな有名人がどうしたってのよ」 「私はあの戦争で一度だけ『華姫』の手当てをした事があるの。その時、体を触れて感じた違和感を、あの坊やは持っている」 「それが今回のルークスちんの無適性と関係があると?」 「さぁ、それは断定できないわ。でもあの無敵の強さを誇った『華姫』には不思議な噂があった。」 「誰も彼女の適性を知らなかったの。そのため彼女はオールAとさえ囁かれていたわ」 「オカルトじみた話ね。」 「ま、一旦ルークスちんはわたしのギルドで預かることにするわ」 ーー「お待たせ二人とも♡」 「ヴァイスさん……ルークスは」  キアが心配そうな声を出す。 「キアちん、今日はもう遅いからお家に帰りなさい、私はこれからルークスちんの家を見繕ってこなきゃいけないから」 「それじゃルークスは!」 「ええ、今日からルークスちんはうちのギルドメンバーよ」 「良かった! ありがとうヴァイスさん! ほらルークスもお礼言わないと!」  先ほどまで脳内とはいえ、こんな優しい人を、ゴリラだ何だと馬鹿にしてきた自分が恥ずかしくなった。 「ありがとうございます。でも、無敵性者の俺なんかがギルドの皆さんのお役に立てますかね?」 正直ここは俺みたいな、無適性者がいていい場所ではないと思った。 「キアちんにはボークスで、いつもお世話になってるし、あなたみたいな可愛い男の子一人くらい増えた所でなんの問題もないわ」 それを聞いたキアは、少し誇らしげに頷いていた。 「じゃあたし帰ります、ルークスは寂しくなったり困った事があったらいつでもお店に来るのよ!野菜スープくらいならサービスするからね」 そう言うと、キアは暗い夜道を駆け足で去っていった。 「それじゃアタシもルークスちんの家を探してくるわね。ルークスちんは二時間後、またこの場所で落ち合いましょ」  さてこれからどうしたものかと思っていると、耳元から吐息とともに甘い香りが漂ってきた。 「坊や、今からちょっとお姉さんに付き合ってくれな〜い♡?」 「はい」  即答だった。コンマ数秒で俺の脳はこれから起こるであろう、大人の遊びの内容を予測していた。  そうか。女神様の言っていた、勇者になれという命令はこの事を言っていたのでは無いかろうか? 一見、こんな今日知り合ったばかりの美女からのお誘いなど、普通の人間からしたら、何か恐ろしい裏があるに違いないと思うだろう。   しかしそこをあえて挑戦する姿勢こそが真の勇者なのだ! そんな期待に胸を膨らませながら、シャルルさんの後を付いていった。
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