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死の果てに見る扉
「まずなんで無適性のルークスちんが適正B以上の格闘士の力を使えたのかを聞かないといけないわね」
「ええーーと。その。なんか変な蓋? があって……」
自分でもここまで説明が下手だと笑えてきた。
「代わりに私が説明するわね」
予想通りの代役。
「ハッキリと断言すると、この坊やは無適性ではないわ」
キア、ヴァイスさん、その他の方々全員が耳を疑った。
「で、でも昨日確かにルークスのスレッドには全部Fの文字が刻まれていたし、現にシャルルさんもその目で確認したじゃない!」
「ええ、確かにしたわね」
「あんたが何か知ってると言うことは、やはり昨日何かあったのね」
そう、昨日だ。なぜあんな力が出たのか。
「この子は扉を持ってるの」
――――「ふーん、じゃ今から君を殺しても良いかな?」
この人は何を言っている? なぜこの状況からそんな言葉が出て来る?
「な、何言ってるんですか? 意味がわかりませんよ!」
「その感じ、アナタやはり自分の力に気づいていないのね?」
力? そんなものが無いことはさっきの地下室で、無適性者の烙印を押された瞬間誰もが知っている事実だ。
「おちょくってるなら趣味が悪いと思いますよ? こうゆう青年が落ち込んでる時、余裕のあるお姉さんなら、そっと抱きしめてその胸元のからエネルギーを注入してくれそうなものですけどね」
少し挑発的で低い声で言ってやった。
「大丈夫、殺しにはいくけどその分回復もしてあげるから♡」
理論が破綻している。
しかしあの冷えた目から感じる狂気は今言った事さえ何の迷いも無く実行できる人の目だと理解出来た。
「踊る大気よ、我の息吹となりて天より降り注げ 『暗黒魔導 氷結の刃!』」
一帯の気温が氷点下に下がり、頭上には無数の氷柱が俺をベクトルの最終地点として捉えていた。
「散!!」
その氷の様に冷えた言葉と同時に一斉に俺の、四肢や胴体を容赦無く貫いた。
氷の柱は、肋骨の防御力なんて気せず内臓を全て破壊していく。
「ゔぉはっっ!……だ、だ、だん……で……ごんだごど……」
冷え切った真っ白な大地に、赤く三十六度ほど温かみがある鮮血が、純白のキャンバスを彩った。
痛い。苦しい。息が出来ない。怖い。死にたくない。
このお世の全ての苦しみを表現する言葉を用いても、誰も俺の苦しみは理解出来ないはずだと思った。
氷点下のはずの気温も、俺を早く殺したいのかと思うほど、我先に流れ出る血のおかげが不思議と寒く感じなかった。
しかし、今まで味わったことの無いはずのこの悪夢の様な感覚にはどこか懐かしさを感じた。
「静謐なる我が神よ、真に在りし姿を造出せよ! 『回復魔導 翠回』」
先程の数多の感覚が一瞬で消えていく。
「ほら早く戦わないとまた殺しちゃうわよ? ま、死ねないんだけどね♡」
「あ、今みたいに戦ったら街の人がやってきたりするのを気にしてるのかしら? それなら心配ないわ、街には視覚、聴覚の防壁を張ってるから、こちらで何が起きてもばれっこないわ」
ああ、この人は狂ってる。
狂人だ。
人を蜂の巣にしておいて、満足げにニンマリ笑っている彼女を見て思った。
それから三十分、俺は殺され続けた。
「ーーあんたは……。あんたは狂ってる! 訓練でもしたいなら理由を教えてくれよ!! こんな仕打ちをしなきゃいけない道理を教えろ!!」
「それじゃダメなの、あなたはあなた自身のことを知らなすぎる。
話にならない。
ふざけるな。
俺だっていきなり異世界に飛ばされ、曖昧な記憶の中生きている。
怒りが体を支配し、全細胞を蹂躙しているのが分かった。
なんだこの世界は。
訳もわからず転生させられ、無適性という最弱の称号を無理やり獲得させられ、挙句最高位適正の女に五十回以上なぶり殺される。
ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな
ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな
ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな
『殺してやる』
その有り余る感情と明確な目的を脳が確認した時
ガチャッ
見た事も無い部分から音がした。
例えでしか認識していなかったが、確実に『魂』と呼ばれるべき場所から、何かを開いた音が身体中にこだました。
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