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「まあ、怖いわ」
ダイニングテーブルで夕食後のお茶を飲みながら、お母さまが声をふるわせます。
お母さまの視線の先にはテレビがあり、いま、強盗のニュースを放送しているところです。
あたしたちの住んでいるこの市では、立てつづけに強盗の被害が出ています。犯人は二人組の男。ゴムマスクをかぶって、顔がわからないようにしているそうです。
いまニュースでやっているのは、その二人組が昨日、となりの町内に住むお婆さんの家に押し入ったという事件です。お婆さんは刃物で刺されて重体。犯人は家にあったわずかなお金を奪い、逃走したようです。
「まったく」
と、お母さまはため息をつきます。「こんなのに入られたら困るわ」
お母さまは四十一歳ですが、実は空手の有段者です。ちなみにあたしも去年、小学五年生のときから、空手を習いはじめています。
それでも、いまのわが家は、お母さまとあたしのふたり暮らし。だから、いくらお母さまが強くても、強盗に対しては不安なのかしら、とあたしは思いました。胸がドキドキしてしまいます。
(こんなときに、お父さまがいてくださったなら)
そんなことを考えかけて、あたしは首を横にふります。
いけません。あんな不誠実なお父さまを頼ろうなんて、どうかしています。
お父さまは、外に別の女性、つまり愛人をつくって、ふたりで遠いところへ行ってしまったのです。
ですから、もし強盗が押し入ってきたら、お母さまとあたしのふたりで立ち向かわなければならないのです。
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