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三田、社長、松井の順に、細いが踏み固められた山道を進んでいく。階段を降りていくと、ドドオという滝が落ちる音が聞こえ始めた。
「おお。水の量はちと少ない気がするが、近くで見るとなかなかの迫力だな」
「そうですね。空気も違う気がします」
滝壺の周りに生えた苔が、艶々と輝いている。その上をスーッと蝶のようなトンボのような虫が飛び回っていた。
「おい、あいつは何やってんだ?」
松井は滝に背を向け、しゃがんでいる。
「腹でも痛いんじゃねえか」
「社長じゃないんですから」
「あん?」
急いで社長の側から離れ、しゃがんでいる松井に近づいた。
「松井君?」
そっと声をかけたつもりだったが、ぎくりと松井の肩が震えた。
「驚かせるつもりはなかったんだけど、あっ」
蝶のような虫が羽ばたいてスーッと一メートル先でまた止まった。松井はデジカメを構えたまま、三田を咎めるように見た。
「松井君、ごめん。あれは何ていう虫?」
「いえ。あれはウスバカゲロウっていう……」
そう言ってまた虫を追いかけ、しゃがんでシャッターチャンスを狙っていた。
「はあ」
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