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「私、出掛けるんだけど。タマちゃんちでお泊まり予定って言ってたじゃん」
出来ることなら会いたくない。ここ数ヶ月はバイトや課題を口実になるべく顔を合わせないようにしていたのに。
「俺もサエちゃん(彼女)から電話が来る予定なんだもんよ。頼むわ。ビール何缶か持ってって、寝かせちまえ」
ザァッという降り始めの雨の音が聞こえてきた。
数年前までは心が弾んだこの音も、今では苦い思いが伴い喜べなくなっていた。
夏菜は渋々冷蔵庫からビールを取り出し保冷バックに入れ、宿泊用の鞄を肩に掛けて玄関を出た。
恭也が同じ階のマンションに父親と引っ越してきたのは今から7年前だ。夏菜はまだ小学生で、恭也は兄と同い年の中学生だった。線の細い綺麗な顔立ちの男の子に夏菜はすぐさま心を奪われた。直ぐに意気投合した兄に夏菜も便乗し、家族ぐるみの付き合いが始まった。
恭也の父親は仕事で留守がちだったので、あの頃はほとんどうちに同居していたと言っても良い。
しかし、高校生になると恭也がうちにいる時間は減っていく。
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