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雨が風に運ばれてマンションの通路を濡らしている。夏菜の剥き出しの腕にもかかったが、6月の蒸し暑い空気の中では気持ち良く感じる。雨の匂いを運んでくる風が髪を撫でるのも嫌いじゃない。
しかし、恭也は、雨に怯える。
雨の日に不安定になるのは、
恭也の母が雨の中に幼い恭也を置き去りにして
男と逃げた光景を思い出すから。
合鍵を差し込んでドアを開けると部屋の中はうす暗い。時刻はまだ5時を過ぎたところだが、雨雲が空を覆っているせいだ。
電気のスイッチを押そうとして止めた。
物音が聞こえないので、またリビングのソファで寝ているのかもしれない。
リビングのドアをそっと開けると、案の定、薄闇の中にソファに横たわる人影を見付けた。
テーブルの上にはビールの空き缶が3つ並んでいる。
膝を抱えて震えていた少年はもういない。
寂しさを紛らす方法を幾つか知って、幼なじみの兄妹に頼らずとも生きていける大人になりつつあるのだ。
雨の日に夏菜や兄が呼び出されることも減っていくだろう。
しかし、どうやら無駄足だったようだ。
持ってきた缶ビールを冷蔵庫の中に入れて、未開封のイオン飲料のペットボトルをテーブルの上に置いた。
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