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腕を掴まれていると気付いたのは、かなり後だった。
夏菜はよろめいてその場に膝をついた。
恭也の顔がすぐそこにある。が、眼は開いていない。
「今日は…来れないんじゃ…なかったの?」
恭也が切れ切れに尋ねてきた。
夏菜は理解した。
他の女性と間違えているのだ。
誤解を解くのは構わないが、興醒めした恭也が目を覚ますのも厄介だ。
ここは適当に話を合わせてそっとお暇しよう。
「出掛ける前にちょっと寄っただけ。もう行くよ。そのまま寝てて」
手を離そうとそっと引っ張ったが、更に強く握られた。
「行っちゃ駄目」
夏菜は口を覆った。カワイイか!!
「一緒に寝ようよ」
そういって更に引っ張られ、夏菜の身体は恭也の上に乗ってしまった。
固い胸板が頬に当たって鼓動が早くなるのがわかる。
流石にこれはマズイ。身体を起こそうとしたところを今度はガッチリ腕を回して抱き締められた。
「何で逃げるの。ずっとこうして一緒に寝てくれてたのに」
夏菜は恭也の抱き枕になったことなどない。
恭也が選ぶのは、いつだって華やかで強かな後腐れのない女達だ。
夏菜はただの妹的存在。近いけど恭也にとっては女ではない。
雨の日専用のメイドみたいなものだ。
多分、こうして様子を見に来ることすら、もう必要ないのだ。
事実、ここ数ヶ月この部屋には来ていないけど平気そうじゃないか。
そっと上を窺うと、恭也の瞼はまだ閉じているようだ。寝ぼけているのだろう。
夏菜は考えを駆け巡らせた。このまま寄り添っていれば、その内また眠りに落ちるのではないだろうか。
夏菜は身体から力を抜いた。
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