私の雨王子

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私は存外自分勝手なんだなと夏菜は思う。 人を利用して傷付けて それでも、生きているんだから。 すべての発端は、1人の男への一途な恋心だ。 一途と言えば聞こえが良いが、諦めが悪かっただけだ。 諦めるために他の男を好きになろうとしてみたが、結果的に周りを傷付けて自分も重症を負った。 健気な自分に酔っていたことに気付いて吐きそうなぐらい気持ち悪かった。 これ以上自分を嫌いになりたくないので夏菜はとうとう決心した。 「兄ちゃん、私さ、家出るわ」 リビングでビール片手にサキイカを咥えてスマホを観ていた兄は振り返った。 暫くじっと夏菜を見つめた後、訊いた。 「ふぅん、良いんじゃねぇの。で、恭也には言ったの?」 察しの良い兄は気付いているのだろう。 妹のしつこい片思いと悪あがきに。 「その内、私から話すよ」 吹き込んだ風にカーテンが揺れた。 兄は億劫そうに立ち上がってリビングの窓を閉めた。 「わかった。父ちゃんと母ちゃんにも口止しとくわ。…あー、わりぃけど、夏菜、アイツの様子見に行ってやってくれよ。雨が降って来たみたいだからさ。さっき大学から戻って部屋にいるわ。女も来てねぇよ」
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