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アイディアはあるんだ。溢れんばかりにあるんだ。俺はいつも夢の中の物語に虜。それなのに、起きたらどんな内容だったか忘れている。せっかくいいストーリーなのに、もったいない。
「なにやってんだろう……」
ある夏の日、快晴だった。閑静な住宅街をひとりで歩く。道端に落ちているタバコがアスファルトの塵にまみれていた。なぜか親近感を感じた。
売れない小説家、いや、小説家なんていうのもおこがましい。俺はただの……。
「社会不適合者っていうのかな」
夢に見るということは俺の中にアイディアがあるということ。起きているときにでるアイディアはなにも面白くない。よくいえば王道、悪くいえばありふれている。ネットが普及した今、趣味で小説を書く人が増えた。さまざまなサイトやSNSで投稿している。執筆する人口が増えれば、作品のジャンルも増える。
読者が求めているのは斬新な設定なのか、読みやすい内容なのか。俺にはわからない。
ひとついえるのは、世の中にある物語のどれよりも、俺が見た夢のほうが心躍る。読者は俺ひとりだけ。
「走れダンティオ!!」
唐突に声が飛んできた。ちょうど俺の後ろから。振り返ると、髪の長い女の子がいた。高校生くらいだろうか、セーラー服を着ている。太陽に負けないほど輝かしい瞳が俺を見つめている。
「だ、だれ……?」
「夏の蝉が鳴き終わるまえに自分を超えろ!」
そういわれた気がした。もしかしたら実際に言ったのかもしれない。
俺は走った。がむしゃらに走った。剃り損ねたヒゲも、うねっている髪も、周りの目も気にしなかった。中年男性がひたすら町を駆ける。
「私が手伝ってあげるね」
そういうと彼女はビルから飛び降りた。
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