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一.浦嶋襲来
"海ノ宮高等学校"
「ねぇねぇ見て、亀園さん…また乙辺くんの後ろに引っ付いて歩いてるよー」
「乙辺くんと幼馴染で仲良いからって、絶対に乙辺くんを独り占めしようって魂胆だよねー」
「亀園さんって乙辺くんの友達にも媚び売ってんだよーッ!イケメン好きにも程があるッ」
「ほんと、ちょっと可愛いからってあざと過ぎー」
「乙辺くんが他の女子に愛想悪いのって絶対あの子のせいだよねー」
「絶対に亀園さんが他の女子の悪口言ってんだよ!」
「悲劇のヒロインって感じよねー」
どこかの女子生徒達が口々に囁いていた。
「・・・」
ひかり<・・ん?あの女の子のこと…?>
浦嶋 ひかり(高校2年生)は、親の転勤により黄金の連休も明けた若葉が生い茂る季節に、家族で海の見えるこの町へと引っ越して来た。
今日は、転校先の高校であるこの海ノ宮高校への初登校日である。
ひかりが職員室へ向かう途中、一際目立つ容姿の美男美女が歩いていた。
先程の悪口は、美少女であるその女子生徒の方に向けられたもののようであった。
ひかりが足を止め、呆然とその美男美女を眺めていると、美男の方の男子生徒がこちらに気づき顔を向けた。
ひかり「…っっ!」
その男子生徒は、鋭い眼差しでひかりを睨みつけた。
「・・・」
ひかり<何か…勘違いしてないかい?私は何も言ってないよ?>
ひかりは男子生徒から慌てて目を逸らすと、職員室へと足を進めた。
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「君が浦嶋ひかりさんだね。今日からよろしく」
「はい…よろしくお願いします」
ひかりは職員室で担任の魚住 太郎より一通りの説明を受けると、これから新しい高校生活を送るひかりのクラスへ担任の魚住と共に歩いた。
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「浦嶋さん、何か大荷物だね…。その紙袋、何入ってんの?」
担任の魚住は目を丸くさせながら、ひかりが抱える大きめの紙袋を覗いた。
「あぁ…ちょっと…」
ひかりは説明するのが面倒になり苦笑いしてはぐらかす。
魚住は不思議そうにひかりと紙袋を見つめた。
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"2年B組"
ガラガラガラ…
「はーい、おはよー!皆聞いてくれッ。今日は君達に新しいクラスメイトを紹介する」
担任の魚住が教壇に立つなり、ひかりを紹介した。
「新しく転校してきた浦嶋ひかりさんだ」
「浦嶋ひかりです。よろしくお願いします」
ひかりは落ち着いた口調で挨拶するとペコリと頭を下げた。
「やばっ、美人じゃん…」
「何か落ち着いた雰囲気で良いね…」
「同じ美人でも誰かさんとは大違い…(笑)」
「確かに…"あの子"はせっかく美人なのに性格がちょっとなー(苦笑)」
クラスメイトの囁く声が聞こえる。
「…っ」
ひかりはクラスメイトが囁く内容に違和感を覚え何だか嫌な気分になった。
誰かの悪口を言っているのが分かったからだ。
「オィ…」
「オィッ…お前ら…」
クラスメイトの中でもそんな声に反論しようとしている男子生徒も数人いるようだった。
「はいはい、静かにッ!じゃあ浦嶋さん、一番後ろの角の席。あそこの空いてる席に座って。隣の席の乙辺ッ!浦嶋さんが困ってたら助けてやってくれ」
担任の魚住が話しかけている男子生徒は、今朝ひかりを睨みつけた美男な男子生徒であった。
「・・・っ!」
ひかり<同じクラスの人だったんだ…>
ひかりは驚き戸惑うと、内心少しテンションが下がった。
その男子生徒は乙辺 竜輝と言い、この高校イチのイケメン男であり女子生徒達からは大層な人気があった。
だが、竜輝は今朝一緒にいた美女以外の女子生徒には冷たい態度を取り続けている為、他の女子生徒達は皆、竜輝に近づく事は出来なかった。
「・・・」
竜輝は顔を背け、相変わらず仏頂面で座っている。
ひかり<なぜか私は彼に嫌われているらしい…>
するとひかりは、ひかりの席の前に座る女子生徒に目を移した。
ひかり<あ、あの女の子も同じクラスなんだ…>
その女子生徒もまた、今朝見かけた美女であった。
その女子生徒は下を向き何だか浮かない表情をしていた。
彼女は、亀園 万莉華という名前であり、こちらもまた校内イチの美少女である。
だが、彼女に対するいろいろな陰口や噂のせいで、女子のみならず男子からも敬遠されていた。
ひかり<あの二人同じクラスだったんだ…>
ひかりは、先程の囁く悪口は彼女へ向られたものであると瞬時に悟った。
ひかり<美人なのに…あんな表情、もったいないな…>
ひかりはチラッと万莉華を横目に席に着いた。
ひかりは、横の席に座る竜輝の仏頂面と前の席に座る万莉華の困り顔が、何だかとても気になった。
「ねぇねぇ、浦嶋さん!私達が校内案内してあげるよッ!」
ホームルームが終わるや否や、数人の女子生徒達がひかりの元へ詰め寄って来た。
ひかりは、その女子達が今朝、ひかりの前に座る万莉華の陰口を言っていた女子生徒達であることに気がついた。
「うん、ありがとう。でもいいや」
ひかりはケロッとした顔つきでその女子達を見た。
「え…」
その女子達はキョトンとした表情でひかりを見た。
隣の席に座る竜輝も驚いた表情でひかりの方に顔を向けた。
「私、前の席の子に案内してもらうから大丈夫」
ひかりがけろりとしている。
前の席に座る万莉華は驚いた表情で振り向いた。
ひかりの隣の席に座る竜輝も呆然とひかりを見ている。
「え…いや…辞めた方が良いよ…この子、あざとくて性格に難ありだから…(苦笑)」
女子の一人がそう言うと、他の女子生徒もクスクス笑っている。
「んー・・そうねー・・」
ひかりが口を開くと、前の席に座る万莉華は再び俯き、隣の席に座る竜輝はひかりを睨んだ後、両手に握り拳を作り俯いた。
「それはあなた達の方がでしょう?」
ひかりは冷めた表情でその女子達を見つめた。
「…っっ!!」
ひかりのその一言を聞いた竜輝はまたしても驚いた表情でひかりを見た。
ひかりの前に座る万莉華も思わず顔を上げる。
ひかりに言われた女子達は、目を見開き固まった。
ひかりの言葉で、クラスは一気に静まり返った。
するとひかりは静かに立ち、前の席に座る万莉華の方へ歩み寄り振り返ると、先程の女子達の方を向いた。
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