十四.未来の現在進行形

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「・・・」 亀美也がぼーっと物思いに耽ていると、一匡が声をかけてた。 「何急に哀愁漂わせてんだよ。まぁこれでも飲んで元気出せ」 一匡が亀美也にブレンドコーヒーを差し出した。 「あ、ありがとうございますッ」 亀美也の目が輝いた。 カランカラーン… その時、ゾロゾロと教師軍団が入ってきた。 それは真夏斗と凰太、帆乃加と有希であった。 「いらっしゃーいッ」 ひかりが笑顔で声かける。 「おつかれ」 竜輝も微笑みながら真夏斗達を見た。 「腹減ったぁーッ」 凰太が天を仰ぐ。 「ひかり、いつものハンバーグ!ウラオトスペシャルッ!」 帆乃加が満面の笑顔で言う。 「・・を4つッ!」 すかさず真夏斗達が言う。 「はーいッ」 ひかりが笑顔で返事した。 「あれ、瀬田っちじゃん!どうした?なんか珍しく哀愁が漂ってっけど」 真夏斗が亀美也を見つけるなり声をかけた。 真夏斗達と亀美也は、高校の夏休みでの海以来仲良くなっていた。 「いやー運命の出会いはないもんかなァって思って。俺バスケ一筋だったから、彼女も好きな人もいないのって…気づいたらもう俺と鮫島と鯨田だけになってんすよ」 亀美也が口を尖らせる。 「何だ、そんな事なら俺らだって同じだぜ?」 凰太が笑顔で言う。 「出会いを求めているのは瀬田っちだけじゃねぇよッ!狭い範囲で見てると俺らだけって思うことも、範囲を広げてみれば同じ境遇の奴なんて意外と山ほどいるもんだぜ?だからまあ落ち込むなよッ」 真夏斗も笑顔で亀美也を見る。 「何か…皆、前向きっすね。俺、鮫島と鯨田誘って合コンでもしようかな…。やべぇ…女性とのパイプがねぇ…」 亀美也が遠い眼差しで言った。 「フハハッ!じゃあ、俺らと合コンすっか?俺こう見えて女性の友達は何人かいるぜ?」 凰太がドヤ顔をさせる。 「え!!いいんすかッ?」 亀美也が目を輝かせた。 「そしたら私達もその合コンに混ぜてよー!私だって運命の出会いを求めてるんだからァッ」 帆乃加が口を尖らせる。 「なかなか運命的な出会いなんてないわよね…」 有希がため息つきながら言う。 「やだよ。お前らがいるとめんどくせぇから。他でやれよ」 真夏斗は冷めた表情で帆乃加達を見た。 「何よ、めんどくさいって!腹立つー!私達だって男性とのパイプないしッ」 帆乃加がギリギリ怒る。 「何だお前ら、しけた面して」 カウンターに座る亮丞が振り返り真夏斗達を見る。 「お、姫沢警官!いたのかよッ」 真夏斗が驚きながら言う。 ことみ「・・・」 亮丞の隣に座ることみは笑顔で軽く会釈した。 「・・・」 真夏斗達もことみに会釈する。 「何だよッ、相変わらずラブラブじゃねぇかッ。彼女持ちは呑気で良いな」 真夏斗が亮丞をジロリと見る。 「亮丞、この前の海ノ宮銀行の消えた三億円発見しだんだって」 竜輝がすかさず皆に言う。 「おま…わざわざ言わなくて良いよ…」 亮丞がたじろぐ。 「マジかよッ!ニュースで見たぞッ!すげーじゃんッ」 真夏斗達が驚きながら亮丞を褒め称える。 「・・っっ。まあ…な…」 亮丞は顔を赤くしながら顔を背ける。 海七太「おめでとう」 横に座る海七太が"宮こんぶ"と書かれた小さな緑の箱を亮丞に差し出した。 亮丞と海七太は、ウラオトカフェの常連で顔を合わせているうちに、中学時代素直になれなかった者同士として意気投合し仲良くなっていた。共に夏祭りや、ひかり達の体育祭、さらには文化祭にもいたという事実を知り二人が驚いたのは、少し前の話である。その際、夏祭りや体育祭、文化祭のどれもが、二人ともひかりが目当てであった事や、同じく文化祭一日目にひかりに告白した事までもが一緒だったのには、お互い苦笑いしたのであった…。 「え」 亮丞は海七太の差し出す昆布を驚きながら見つめる。 「俺なりの喜びの表現」 海七太がポツリと呟いた。 昆布を喜んぶと表現するダジャレセンスは、さすが浦嶋家と長い付き合いなだけある。 「あ…ありがとう…」 亮丞は呆然としながら宮こんぶを受け取る。 「ちなみにそれ、ウチの新製品。"浜条の宮こんぶ"。浜条は俺の苗字な」 海七太が解説する。 「へー。そりゃ苗字は知ってるけど…」 亮丞が"宮こんぶ"を手に取りまじまじと見ている。 「それ、凄く美味しくて病みつきになっちゃうから、食べ過ぎ注意ねッ!海七太なんて、それで一度病院に運ばれたことあるんだからッ」 一歌が笑顔で言っている。 「・・っっ」 海七太は突然暴露され狼狽える。 「何それ、私も欲しい!」 帆乃加が興味津々な様子で宮こんぶを見つめる。 「あげるあげるーッ!実は今日皆に配ろうと思って大量に持って来てるんだァ」 一歌はそう言うと、満面の笑顔で皆に宮こんぶを配り始めた。 「何だよ、元々配るやつだったのかよ」 亮丞はジロリと海七太を見た。 「・・・」 海七太はニヤニヤしている。 「・・・」 亮丞は瞼を半分下ろし、目を小さくさせながら海七太を見た。 「…つーかさァ、お前ら出会いがねぇって言うけど中学の時、一時期すげぇモテてなかったっけ?」 真夏斗が帆乃加と有希を見ながら言う。 「ああ…リレーの後だけね…」 帆乃加はポツリと呟く。 「でもすげーよなァ。三年の女子リレーも優勝しちゃったんだからさー。結局ビリだったのって一年の時だけだったもんな」 凰太が目を丸くしながら言う。 「そうそう。だから、二年と三年の時のリレーの後だけはモテたのよね…。二回波が来たのよ…」 懐かしむような遠い目を浮かべる帆乃加。 「あの時、決めとけば良かったのかな」 有希がポツリと呟いた。 真夏斗・凰太「・・・」 真夏斗と凰太は冷めた表情で二人を見つめた。 「一匡さんは俺らが三年の時のリレー見れなかったんでしたよね?」 真夏斗が一匡を見た。 「あぁ。ブラジル行ってたからなー。まぁーひかり達が勝つ事ぐらい想像ついたけどな」 一匡はサラリと言った。 「万莉華、あなたすごいわね。遠距離恋愛耐え抜いたなんて…」 帆乃加は感心しながら万莉華を見る。 「うん。一匡の言葉、信じてたから…」 万莉華はうっとりとしながら一匡を見た。 「…っっ」 一匡は照れくさそうに顔を逸らした。 「何て言われたのー?」 有希が万莉華に詰め寄る。 「それはー・・・」 万莉華は遠い目を浮かべ思い出していた。 -- 一匡がブラジルへ渡る時… 一匡「俺、いつも万莉華を想ってる。絶対に万莉華を迎えに行くから待ってろよ。それで必ず、お前を"竜宮の城"ってとこに、連れて行ってやるからな…」 万莉華「うん…ずっと待ってる」 -- 「・・・」 万莉華は当時の様子を回想すると、頬を赤く染めチラッと一匡を見た。 「・・っ」 一匡も顔を若干赤くしながら万莉華をチラッと見る。 すると万莉華は、微笑みながら言った。 「ナイショ」 「えーっ!!」 有希と帆乃加は残念がる。 すると万莉華が続けて言った。 「私ね、一匡との縁もそうだけど…絆が強い縁っていうのはループ状に丸い形してると思ってるの…輪ゴムみたいな」 「・・・」 仲間達はキョトンとしながら万莉華を見つめた。 「・・!」 一匡も驚いたように万莉華を見る。 「スタート地点に同じ場所にいて、もしその後にそれぞれが反対方向に歩き出したとしても、いずれまたぶつかる。また会える。そんなふうに思ったら、一匡と離れていても次に会える日を楽しみに出来た。必ず会えるって信じられたんだ」 万莉華は優しい表情を浮かべながら一匡を見た。 「万莉華…」 一匡はそんな万莉華に見惚れる。 「でもそれってね、仲良い仲間にも言えることだと思うの。だってほら…今もこうしてまた、皆集まってる」 万莉華は笑顔で帆乃加達を見た。 「確かに…」 帆乃加達も納得している。 「でもまぁー、兄ちゃんがブラジル行ってたのたった三ヶ月だけだったけどな。兄ちゃんが帰って来たの、体育祭の翌日だからな」 七央樹がサラリと言う。 「え…」 帆乃加達は真顔で一匡と万莉華を見る。 「・・・」 万莉華と一匡は周囲の反応をよそに、お互いを熱く見つめ合っている。 「・・・」 先程の感動を返してほしいと思う帆乃加達なのであった。 竜輝・七央樹「・・・」 一方竜輝と七央樹は、一匡がブラジルへ旅立つ時の一匡と万莉華の大袈裟なほどの茶番劇を思い出し、瞼を半分閉じた。 「でも万莉華さんって本当に変わりましたよね…。さっきの縁の話もそうですけど…何かすごく前向きになったっていうか…」 紗輝はそう言うと、まじまじと万莉華を見た。 万莉華は笑いながら言った。 「ひかりのおかげ」 万莉華はそう言うと、厨房でハンバーグを作るひかりの後ろ姿を見つめた。 「・・・」 一匡と七央樹は万莉華の言葉を聞き、それぞれ笑みを溢した。 真夏斗と凰太、帆乃加と有希、そして亮丞と海七太、さらには亀美也など、皆微笑みながらそれぞれ自分も同じだと思っていた。 そして竜輝は、厨房にいるひかりの後ろ姿を優しい表情で見ると静かに呟いた。 「俺も…」 ジュー・・… 「おまたせしましたーッ!ウラオトスペシャルハンバーグでーす」 ひかりはニコニコしながらハンバーグを運んで来た。 「わーい!!美味しそぉッ」 帆乃加達は歓声を上げる。 「・・・っ」 亮丞と海七太、亀美也はゴクリと唾を飲み込む。 「私もお腹減って来ちゃったァ。私達も頼む?」 ことみが亮丞の顔を覗く。 すると… 「お待ちどうさまー」 ひかりが、亮丞とことみ、海七太と一歌、亀美也の前にも同じハンバーグを次々と運んだ。 「え…あれ?頼んでたっけ?」 亮丞達が驚いた表情でひかりを見た。 「そろそろ君たちも食べたくなるんじゃないかと思ってねッ」 ひかはニカッと笑った。 「さすがッ!!」 一同感激し、タイミング良く運ばれたハンバーグを嬉しそうに見つめた。 ひかりの手作りハンバーグ大量生産技術は、昔からお手のものである。 「ありがとう!いただきます…」 皆、ひかりの特製ハンバーグを堪能した。 「ねぇ、竜輝。さっき何の話してたの?チラッと私の名前が聞こえたような…」 ひかりは竜輝の顔を覗いた。 すると竜輝は微笑みながらひかりを見て言った。 「ひかりは、"光" だって話」 「・・?」 ひかりはキョトンとしながら竜輝を見つめた。 「…っ」 竜輝はフッと笑みを溢した。 ひかり<どういうこと…??> ひかりの頭上には複数のハテナマークが出現した。
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