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しばらくして、ひかりは店の入り口の札を裏返した。
店内が、学生時代の友人達だけになったからである。
店は友人達の貸し切り状態となった。
仲間達は食後のデザートである竜輝特製のクッキーと一匡の淹れた極上のコーヒーに舌鼓を打つ。
友人達は皆、まったりとした至福の時間を過ごしていた。
すると、店内で流れている誠二郎のラジオ、"春日亀 誠二郎のウミマチFWラジオ"で、ある一通のお便りが読まれ始めた。
~♪(ラジオ)
"僕は今年で29歳なのですが、彼女もいなければ好きな人もいません。趣味ややりたい事も特にありません。あまりにも何もない自分に、周りから取り残されているように感じ、僕は漠然とした不安と焦りを感じています。何となく選んだ仕事をしながら何となく過ごす毎日で、特に何もない人生を送っている…こんな自分を変えるには、どうしたら良いですか?"
DJ誠二郎は、ラジオでリスナーからのハガキを読みあげた。
すると…
ラジオの中のDJ誠二郎と、店内にいた一匡が同時に呟いた。
誠二郎 "焦らなくても良いんじゃない?"
一匡「焦らなくても良いんじゃね?」
ラジオの中のDJ誠二郎とシンクロするように、一匡が同じ言葉を言っていた。
「・・!!」
店内にいた皆は、驚きながら一匡を見た。
「・・・」
一匡はニヤッと笑った。
するとDJ誠二郎がラジオで話し出した。
「僕の親友に言わせたら、おそらくそう言ってると思います… (笑)」
「…っ」
ラジオの中で話す誠二郎の言葉を聞いた一匡は、フッと笑みを溢した。
ひかり達も皆、ほっこり笑顔になる。
DJ誠二郎は続けて話す。
「僕も親友と同じ考えです。今はまだ何も見つけられてなくても良い。君が足元を見ながら歩いていれば、そのうち自分の人生を変えてくれる人に突然ばったり会うかもしれない。僕もそうでした。幼い頃から高校三年生の始めまでは、ずっとパッとしない日々を過ごしてました。ただ自分の足元だけを見てひたすら歩く日々でした。そしたら突然、僕の人生を変えてくれた人に出会った。それがさっき言った僕の大切な親友です」
「・・っ!」
誠二郎の言葉を聞いた一匡は少々驚いたように手を止め、ラジオが流れて来るスピーカーを見た。
一匡は若干目を潤ませていた。
ひかり・七央樹「・・・」
ひかりや七央樹はそんな一匡を横目で見た後、小さく笑みを溢した。
DJ誠二郎は話し続ける。
「僕が今のこの場所にいるのも、彼らのおかげなんですよ。あっ、彼らって言うのは、先程の親友には妹さんと弟さんがいまして…彼ら三人兄妹弟の事なんですけど。親友を含めた兄妹弟達は皆、それはそれはもう…かっこいいんですよ。彼らが僕の住む町に来てくれたおかげで…僕の人生が変わった。きっとそう思ってるのは、僕だけじゃないんじゃないかな?」
ひかり・七央樹「・・っ」
DJ誠二郎の言葉を聞いていたひかりと七央樹は顔を赤くさせ照れる。
「・・・」
一匡は、そんな二人を横目に小さく笑う。
「・・・」
店内にいる竜輝や万莉華、紗輝などの仲間達も皆、DJ誠二郎の言葉に大きく頷くと、浦嶋兄妹弟を微笑みながら各々見つめていた。
そして、DJ誠二郎が明るい口調で話す。
「彼らは僕に革命をもたらしました。そんなレボリューションな風を巻き起こしてくれる人が君の前にも突然、現れるかもしれないよ?」
そしてDJ誠二郎はこう締めくくった。
「おとぎ話でもない勝負でもない君の人生は、亀のようにゆっくり進んだって良い。キリギリスのように今だけを楽しんでも良いんです。取り越し苦労なんてしないで、どの瞬間を切り取っても「めでたし、めでたし」って言えるように今この瞬間を楽しんでいれば良いんです。今の君、今のこの時は、今しかないんだから…。悩む事に時間を費やすのは、もったいないよ。もし今が辛かったら、光のある方へ避難したって良い。君が今歩いてるその道は、一本道でもなければ一方通行でもない。後ろがつかえてるわけでもない。いくら遠回りしたって良いんです。戻ったって良い。立ち止まってみても良いんです。今君が見ている世界が全てではないのだから。これもまた、親友が言っていた言葉なのですが…最後にその言葉を送ります」
すると、ラジオスタジオにいるDJ誠二郎と、ウラオトカフェにいる一匡は、またしてもシンクロするかのように同時に言った。
「ゆるりと行こうぜ。玉手箱開けたって、年取るわけじゃねぇんだし」
「・・っ!!」
そして仲間達は皆、笑い合った。
ひかり・竜輝「・・・っ」
ひかりと竜輝も目を合わせ笑い合う。
ひかりの首には、チェーンに通されたピンキーリングがかけられていた。
それは、ひかりと竜輝が恋人となってから初めてのひかりの誕生日前日に、竜輝がひかりにプレゼントしたあのピンキーリングである。
その後…ひかりは竜輝の誕生日にも同じようにピンキーリングをプレゼントしたいと思い、竜輝と一緒にピンキーリングを買いに行きプレゼントした。
なので竜輝の首にもひかりと同じように、チェーンに通されたピンキーリングがかけられている。
そしてー
二人の左手薬指には、約束どおり本物の指輪が光っていた…。
ある物語に出て来る
名前の通りに
強くて勇敢な女の子や、
名前とは反対の
強くて勇敢な女の子
名前の通りに
可憐で繊細な男の子や、
名前とは反対の
可憐で繊細な男の子
多種多様な彼らが、名前や性別という…いろんなイメージにとらわれずに、本来自分の姿である「ありのまま」を貫き通しながら、お互いを想い合い認め合い、愛し合った。
この世界は、自分オリジナルの物語を作れる。
そこには、決まったレシピもない。
何も制限など存在しない。
自分だけの、物語だ。
ある日突然、
君の中にも浦嶋兄妹弟がレボリューション(革命)を起こしにやって来るかもしれない…。
そして様々な調味料を入れかき混ぜてくれる。
美味しい味付け(人生)になるように。
そしてまた…
君だけの物語を作る。
--
竜輝「ひかり、ミサンガ落ちてる…」
ひかり「あれ、本当だ!切れてる…。竜輝が作ってくれたミサンガ、足に着けといたのに…」
竜輝「何本目だっけ?」
ひかり「五本目ッ!」
竜輝「フッ…(笑)。もう五本目かァ。凄いな…」
ひかり「また作ってね」
竜輝「うん。ん?…ってことは、また何か良い事あるかな…」
ひかり「あるかもッ!」
- 完 -
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