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その夜、私は迷っていた。
同級生とはいえ、保護者。
個人的に連絡を取ってもいいものか……
でも、メモを失くしてしまいそうだから、とりあえず、連絡先だけは登録しておこう。
私は、スマホに電話番号とLINEを登録する。
すると、すぐにスマホが鳴った。
『ちさちゃん、お疲れ様』
敦くんからのLINE。
そっか、登録した通知が行ったんだ!
私は、迷ったものの、無視するわけにもいかず、
『こんばんは』
と返信する。
それから、毎日のように他愛もないやりとりが始まった。
奥さんを病気で亡くしたこと。
妊娠中に倒れたのに、妊娠による貧血だと思い込んで詳しい検査をしなかったため、対応が遅れ、出産後、再び倒れて病気が見つかった時には、もう手の施しようがなかったらしい。
小学校卒業と同時に転校したのは、両親が離婚したため。
その時に、佐藤から小林へ苗字が変わったらしい。
今は、そのお母さんと一緒に住んで、ゆいちゃんの育児を手伝ってもらってるそうだ。
私がのほほんと幸せに生きてる間に、敦くんはいろいろ大変だったんだなぁ。
『ちさちゃんは、結婚しないの?』
再会してからひと月ほど経ってから聞かれた。
『相手がいないもん』
私だって、結婚を考えなかったわけじゃない。
でも、最近までいた彼氏も、タイミングというか、きっかけがないまま、うまくいかなくなってお別れしてしまった。
保育園じゃ、出会いは全くないし。
そんなことを思い返していると、再びメッセージが届く。
『俺じゃダメ?』
えっ?
本気とも冗談ともつかない、短い問いかけ。
これ、なんて返せばいい?
私が、一瞬、返事をためらっている間に、次のメッセージが届く。
『冗談。こんな子持ち、対象外に決まってるよな』
そう言われて、胸の奥がざわついた。
敦くんは、話してても楽しいし、例え冗談でも、そんな風に言われたら、あの頃の淡い想いが蘇ってくる。
でも、敦くんは保護者なのよね。
保護者とどうこうっていうのは、やっぱりためらわれる。
けれど、毎日のように届くLINE。
大半はゆいちゃんのことだけど、それでも、ふとした会話が私の琴線に触れる。
まだ幼い頃に芽生えた私の想い。
とっくに枯れたはずだったのに、再び芽吹き始めた?
私の中のざわざわは当分おさまる気配がない。
─── Fin. ───
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