男の話

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 大方の流れは理解できた。こういった境遇の話は、世の中に五万とあるだろう。会社が倒産。職を失い家族ともども路頭に迷う。  それでも、ほとんどの人が歯を食いしばって、自分の力で懸命に生きているのだ。はっきり言って、同情はしない。  ましてや、人のアパートに勝手に入り込んで家族で暮らすなんて、どれだけ間の抜けた話だ。意味が分からない。  しかも全くの作り話かもしれない。  確証に至るものは、何1つとしてないのだ。  俺は煙草を灰皿でもみ消すと、テーブルに両肘をついて、しばらく考え込んだ。  この男に対しては、情状酌量の余地はない。これだけははっきりしている。  警察へ行き事情を話せば、すぐにでも逮捕状が出るだろう。人の家に入り込んで、2年近くも住んでいたのだ。  しかし、俺の中で、どうしても引っかかるものが1つだけあった。
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