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『こんにちは』
「こんにちは」
あの子は見知らぬ俺にそう言った。俺のボロアパートの近くで。そしてそのまま、俺の部屋へと入って行った。
こいつの息子だろう。あの純粋無垢な素直さに、俺は正直心を打たれた。
あんなに小さい子供が、見知らぬ人に挨拶をしていた。その透き通った目は、何も疑うことなく、俺を見つめていた。人という生き物を信じ切った眼差しだった。
たった一言、わずか5文字の言葉だが、この子は愛されて育てられていることを直感できた。
この目の前の男を許すことはできない。ただ、こいつの息子、そして妻は俺と同じ被害者ではないのか?
家族はこの男を信じている。今この瞬間も。そして帰りを待っている。こんなに罪深いことはない。
二人の間に長い沈黙が流れた。俺は冷めきったコーヒーを飲み干すと、男の前に、1つの鍵を差し出した。
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