男の話

2/6
前へ
/15ページ
次へ
 ほどなくして、コーヒーが運ばれてきた。店で一番安いブレンドコーヒー。  俺は美味くも不味くもないコーヒーを一口飲んだ。男はコーヒーには手を付けることなく、うつむいていた。 「俺が誰だか分かりますよね?」  どこから話を切り出してよいか分からない俺は、ひとまず相手の出方を伺った。  少しは緊張したものの、別に恐れはなかった。俺は何も間違ってはいない。むしろ、感謝してもらいたい。あそこの契約者は、今も俺なのだから。 「お宅の家賃をずっと払い続けている者です」  うつむいたまま、何も答えない男を無視して、俺は自分を紹介した。 「申し訳…ございません…」  男はテーブルに額を付けながら、俺に何度も謝った。  俺が欲しいのは謝罪の言葉ではない。  あんたの真意が知りたいだけだ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加