7.お手をどうぞ

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〜セレーネ視点〜 結局全然眠れず、気がついたら朝になってしまっていた。 寝ていないせいか痛む頭を庇いながら支度をして寮を出る。 早く出過ぎたせいか他の生徒はまだ居なくて、1人でとぼとぼと学園内を歩いていると、僕からは死角になっている廊下の角の所から話し声が聞こえてきて、慌てて近くにある木陰に身を隠した。 どうして隠れる必要があるんだろって隠れた後に思ったけれど何となく隠れた方がいい気がしたとしか言えない。 息を殺してじっと声のする方を見つめていると、廊下からエイデンとノアくんが出てきて驚いた。 エイデンがノアくんの頭を撫でていて、ノアくんがそれを嫌そうに振り払っている。 傍から見ればやけに親密そうで、あの二人は仲が良かったのかって凄く驚いた。 そのままじっと隠れていると、おもむろにエイデンが立ち止まってノアくんの方に振り返った。 ノアくんがそれに驚いて顔を上げると、エイデンが彼にキスをしたんだ。 「っ!??」 びっくりしすぎて声が出そうになるのを慌てて自分の手で押さえて我慢する。状況が上手く理解出来なくて混乱してしまって目が回りそうだった。 エイデンはノアくんのことが好きなの? 2人はどこで知り合ったの? 興味が湧いてしまってうずうずしてくる。 そこで、あれ?って思った。 全然悲しくないんだ。 エイデンが別の人にキスをしていたのに悲しくないどころか二人の関係が気になりすぎてわくわくしてしまっているくらいだった。 「……そっか……」 彼とお別れして数ヶ月、その間に僕はきっと吹っ切れていたのかもしれない。そして、その数ヶ月の間にアルで僕の心は埋まって行った。 嫌がるノアくんにもう一度だけキスをして、二人が手を繋いで歩いていくのを見つめながら何処か心が凪いでいるのを感じた。 気づいてしまえば簡単だ。 僕はアルのことを好きになり始めている。 「いいな……」 あの二人のキスを見ているとアルとキスしたことを思い出して、羨ましいと思ってしまった。 僕もアルとキスしたい。 アルに触れて欲しい。 自覚すれば次から次に欲求は溢れてきて、早くアルに会いたいって彼の所に走り出したくて心がざわめきだす。 エイデンのことが好きだったのに、こんなに早く心変わりするなんて僕は本当に酷い人間なのかもしれないけれど、それでも好きって思ってしまったから気持ちは止められなくて、こそこそと見つからないように木陰から出て寮の方までまた駆けて戻る。 まだこの時間ならアルは部屋に居るんじゃないかって思ったんだ。
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