1395人が本棚に入れています
本棚に追加
「皇帝陛下、皇后陛下の入場です」
合図の声と共に中に入ってきた2人は用意された席へと腰掛けるとゆっくりと周りに居る生徒達を見渡してからゆったりとした微笑みを浮かべた。その姿は俺がずっと見てきた変わらない皇帝と皇后の姿で、いつ見てもあの人達は俺の憧れそのままだと思う。
「僕、皇帝陛下と皇后陛下に会うの初めてだから少し緊張しちゃうかも」
「大丈夫。凄く優しい方達だから」
セレーネの手を撫でて落ち着かるためにそう言えば、セレーネがありがとうって微笑んでくれた。
お母様は俺に気がついたのか俺の方を見ると目でそちらへ来るように合図してくれて、俺はそれに従ってセレーネと共に2人の前へと進み出た。
「我らが太陽であらせられる皇帝陛下と我らが月であらせられる皇后陛下にご挨拶申し上げます」
挨拶を口にすれば顔を上げるようにとお父様が言ってくださったからゆっくりと顔を上げた。セレーネも緊張した面持ちのまま顔を上げる。
「久しいなアステル」
「お久しぶりです。お元気そうで安心しました」
「隣に居るのが例の子かい?」
「……はい」
そうかって嬉しそうに微笑んだお父様に促されてセレーネも2人へと挨拶をした。
「我らが太陽であらせられる皇帝陛下と我らが月であらせられる皇后陛下にセレーネ=ミラーが挨拶を申し上げます」
セレーネが緊張しつつも完璧な挨拶をし終えた瞬間、微かにお父様とお母様の表情が強ばった気がした。お父様のセレーネを見る目が厳しいものへと変化する。
けれど、どうして急に態度が変わったのかが分からずに困惑した。
「……ミラー公爵家のご子息なのかい?」
何かを考える素振りをするお父様の代わりにお母様がセレーネへと話しかけた。彼もまた少しだけ緊張した声をしている気がした。
「?……はい。ミラー公爵家の長男です」
「……そうなんだね」
困り顔で口元だけに笑みを浮かべたお母様がセレーネを見つめながら小さく呟いた。お父様はセレーネから俺の方に視線を移すと、この舞踏会が終わったら少し話がしたいと言ってきて、俺はそれにわかったと頷いた。
当の本人であるセレーネは、状況が上手く呑み込めていないのか困惑した顔のまま2人に交互に視線を向けている。
俺もどうしてこうなってしまったのか分からなくてセレーネ同様困惑していた。
お母様とお父様はミラー公爵家の家名に反応していた気がする。
そう言えば前にセレーネが、セレーネの母親は皇后陛下をあまり好きではない様子だと聞いたことがあったのを思い出した。
もしかしてそれと関係しているのだろうか?
結局何も分からないまま下がるように言われて、他の生徒に挨拶の番が回ってきてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!