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陛下達の元へと向かうアルの後ろ姿を見つめながらまるでアルが僕の元から居なくなっちゃう様な錯覚を感じて不安になった。
思わず呼び止めそうになったけれど、オリビアちゃんが行こうって僕に声をかけてくれたからそれはしないで済んだ。
「……オリビアちゃんはアルと仲がいいよね」
「従姉妹だからな」
「そっか……。アルってとても素敵な人だよね」
「……不安か?」
オリビアちゃんの紫の瞳が僕の心を見透かすみたいに見つめてくるから、その視線を少しだけ苦手に感じて俯きがちに目を伏せて小さく頷いた。
「皇帝陛下は僕のこと好きじゃないみたいだったから……。皇后陛下も困った顔してて、僕のお母様は皇后陛下のこと苦手みたいなんだ」
「だから?」
「だから……その……」
自分は何を言いたいんだろう。
オリビアちゃんの真っ直ぐな視線が痛くて、まるで責められているような気持ちになってくる。
アルの事が大好きで、アルとずっと一緒に居たいって思っているしアルと婚約したいとも本気で思っているけれど、本当に僕でいいのか分からなくなってくるんだ。
もっとアルには相応しい人が居るんじゃないかとか……。
どうして僕は認めて貰えなかったんだろうとか……。
グルグル沢山考えて、考えて考えて……不安はその度に募っていく。
「アステルは皇太子だからどうやっても政治や国に雁字搦めにされてしまう時はあるさ」
「……うん」
「でも、セレーネ様が望めばアステルは何もかも捨ててでも貴方の傍に居ようとしてくれるはずだ。彼は本当に愛情深い男だからな」
アルのことを思い浮かべているのか、オリビアちゃんはそう言って微かに笑みを浮かべた。その笑みを見て、きっと彼女もアルのことが大好きなんだって分かった。
「……オリビアちゃんはアルのこと信頼してるんだね」
「勿論だ。彼は私が惚れた男だからな」
「……はっきり言っちゃうんだ」
「私は自分に正直に生きているからな。隠すのは違うと思っているし、この想いが叶うことは無いと、とうの昔に諦めているから取ろうなんて思わない。嫉妬するなんて以ての外だ。ただ、惚れた男のことは信じ抜くと決めてるだけさ」
堂々と笑顔で言い切った彼女を僕はかっこいいなって思った。聞く人が聞けばきっと無神経だって思うのかもしれないけれど、僕は隠されるよりも清々しくてそちらの方がいいって思う。
それと同時に、2人の絆の深さが垣間見えて羨ましくもなった。
「……僕も2人みたいにもっとアルと信頼し合える関係になれたらいいのに」
彼のことを信じたいと思うのに何処かではやっぱり捨てられてしまうんじゃないかって不安が有る。それは僕の好きが足りないからなのかな?
「私達は産まれた時から一緒に過ごしてるから他の人よりも信頼関係は築けているかもしれないが、セレーネ様はこれから先1からアステルとそれを築いて行けるだろう?私はそれが羨ましいよ」
「……そうなの?」
「ああ、とてもね」
オリビアちゃんはそう言って綺麗に微笑見返してくれた。
2人並んで広間から出ると、長い廊下を進んでいく。
アルは今なにを考えて、どんな話をしてるんだろう。
彼の顔を思い浮かべて、思わず下唇を小さく噛んだ。
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