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「陛下達とはセレーネのお母様の事を話してきたんだ」
「お母様のこと?」
アルの言葉を聞いて、お母様はやっぱり皇后陛下と何かあったんだって分かった。アルの深刻そうな表情を見つめながらずっと疑問だった事が解決するんじゃないかって気もする。
幼い頃からずっと不思議だった。
お母様はミラー公爵家に嫁いでから1度も社交界に出たことは無かったし、チェツーリエ叔母様やミーシャ叔母様の着飾るお手伝いはしても自分が着飾ろうとはしなかった。公爵夫人の立場なのに無駄遣いをした所なんて見たことは無いし、いつもただひたすら静かに地味に生きようとしている様に感じていた。まるで贅沢は自分には許されないんだっていってるみたいに、ひっそりと暮らしてるようにも見えた。
「19年前に起こった現皇后陛下が誘拐された事件は知っている?」
「うん。有名な事件だから。隣国のロペス公爵家が起こした事件で公爵家当主と夫人は死刑になって、ご子息は平民落ちの刑に処されたんだったよね」
「……そう……その事件で平民落ちしたロペス公爵子息のことなんだけど……実は……」
「……待ってっ……」
アルがその先を言おうとしたけれど、僕はそれに思わず待ったを掛けた。全身が酷く震えていてて、それに気がついたアルが僕の震える手をさすってくれる。
アルの言いたいことが僕にはもう分かっていて、それは僕にとってとてつもなく辛い事実。
幼い頃、お父様にお母様と何処で出会ったのか聞いたことがあった。公爵家の誰からもお母様の実家の話やお父様との馴れ初めを聞いたことが無かったから。その時、お父様は笑顔で、『まだ秘密よ』って言って僕の頭を撫でてくれたんだ。
そのまだが何を意味するのかなんて幼い僕には分からなかったけれど、今ならわかる。あの頃の僕にはまだその話を受け入れる準備が出来ていなかった。
そして今、その日が来たんだ。
「……僕のお母様は……罪人なの?」
視界が揺れて、僕の手の甲に雨粒が1つ落ちた。
それを見たアルも僕と同じくらい苦しそうな顔をしている。
「……お母様が、ミラー公爵家に話をしに行くと言ってくださったんだ」
「……話?」
「俺達の今後のことを」
「……そう、なんだ」
今後のこと……。
アルや舞踏会で話をした陛下達の様子からきっと僕達の関係は反対されたんだって察することが出来て胸がギュッて苦しくなった。
でも、僕は……
「……アル」
「なに、セレーネ」
「僕は反対されたって、なにがあたって、アルの隣にいるって決めたんだ」
アルは僕の言葉を聞くと、俺もだよって言葉を返してくれた。
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