1398人が本棚に入れています
本棚に追加
好きな人を探すと言って周りの制止も聞かずに学園へ入学したアステルが、好きな子の隣で幸せそうに笑いながら広間を踊る姿を思いだすととどうしても応援してあげたくなる。
僕がアデルバード様という一番星を見つけたように、あの子にも掛け替えのない大切な星を見つけて欲しいとずっと思っていた。そして、あわよくばその星と結ばれたらいいとも。
「君が誘拐された時私がどんなに心配したか……。君をこの腕で一生抱きしめることが出来なくなるかもしれないと考えるだけでおかしくなってしまいそうだったんだ。そんな気持ちを味合わせた人間を許せというのかい?あの時の気持ちは何十年経ったとしても忘れられないというのに……」
アデルバード様がそっと僕の手を取ってその手を自身の額に充てがう。まるで僕の存在を確かめるようなその姿に、あの時のことを思い出して悲しんでいるのかもしれないと思うと辛くなった。
「……許せとは言えません……でも、子供達に僕達の事情は関係ないはずだから」
「……分かっているんだ……それでも、大事な一人息子を罪人の子の婚約者にするなど簡単に良いと言えるわけが無いんだよ」
僕達はお互い一歩も引かなくて、話は平行線のまま。
アデルバード様の気持ちも分かるからこれ以上強くも言えなくて、結局ミラー公爵家の人達と話してみることしか今出来ることは無いように感じた。
「……エレノアの結婚式の時にアステルが迷子になったことがあっただろう」
「ありましたね」
「その時にあの子は運命の花に出会ったのだと気がついたんだ。香りがするのだと言っていたからね。あの時はアステルの想いが実る日が来ればいいと思っていたのだが……」
「僕も同じです」
だからこそあの子のために出来ることをしてあげたいと思う。
アステルは昔から聞き分けのいい子で、何が欲しいとか何をしたいだとかあまり言って来なかった。そんなあの子がやっと心の底から欲しいものに巡り会えたのなら応援してあげないと。
「ミラー公爵家から返事が来たら直ぐに会いに行きます」
「……そうするといい」
ため息混じりに返事を返してくれたアデルバード様に、ありがとうございますってお礼を伝えてから、そっと彼の頬を自身の手で包み込んだ。
彼の少しシワの増えた頬を撫でながら、僕達も歳をとったなって感慨深く思う。昔の僕ならアデルバード様にこんなにはっきりと意見することは無かった。けれど、歳を重ねるごとに僕も彼も少しずつお互いに遠慮が無くなって来た様に感じる。
「心配かけてごめんなさい」
「まだ心配だよ」
へにょりと眉を垂れさせるアデルバード様が可愛らしくて、僕はもう一度ごめんなさいって言いながら笑を零した。
最初のコメントを投稿しよう!