10.再開(リュカ視点)

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僕の姿を映し出した青い瞳が微かに揺れている気がした。彼は僕を見つめたまま一言も言葉を発しようとはしなくて、僕はゆっくりと彼に近づくと彼の目の前で立ち止まって、震える唇を無理矢理動かした。 「……久しぶり」 アデレードと言いかけて戸惑って止めてしまった。兄さんと言うべきかもしれないとふと思ったからだった。 久しぶりに会う彼は僕の知るアデレードとは何もかも違っている気がしたから。 美しいけれど簡素で公爵夫人が着るには少し地味にも思える装いに、化粧気1つ無いというのに洗練された美しさを放つ彼は歳を取って更にその美しさに磨きがかかったようにも感じる。 昔、天使の落とし子と呼ばれていた頃よりももっと綺麗だと素直に思った。 「……変わらないなお前は」 挨拶の代わりにアデレードはそう言って僕に微笑みかけてきた。 「やっぱり不細工なのは変わらないかな?」 自分の地味顔に手を添えて苦笑いを浮かべると、アデレードがゆるく首を横に振る。 「いや、昔と変わらず綺麗だ」 「……え?」 「それより、セレーネのことで話があるんでしょ。座りなよ」 「……あ、うん」 何処までも穏やかな彼の声に背中を押されてアデレードの目の前のチェアに腰掛けると彼が僕のことをじっと見つめてくる。 僕もそれを見返しながら、見れば見る程に彼は僕の知るアデレードとは違う人のように思えた。 「息子のアステルとセレーネ君が恋人同士だというのはセレーネ君から聞いている?」 「いや、知らないよ。でも、ずっと好きな人がいるとは言っていたからその子のことかな」 「……そうかもしれない……それで、アデルバード様は二人の関係をよく思っていないんだ。僕は出来ることなら応援してあげたいと思っているけれど、アデレードは二人の関係をどう思うか聞いておきたくて」 アデレードは僕の話を聞き終えると、僕のせいだねって小さく呟いた。悲しそうな顔をする彼を見て、彼は昔のことを後悔しているんだと気がついた。 昔の彼は派手に着飾り、開かれるほとんどのパーティーに参加する程に遊び好きな人だった。人を貶めることをなんとも思わないような、それを楽しんでいる節すらある様な最低な人だったと思う。 そんな彼をここまで変えたのは一体なんなのだろう。誘拐事件で罰を受けたからなのか、その後の生活で何かあったのか、それともユリウス様と出会ったからなのか、僕には本当の所は分からないけれど……。 「2人の関係を認めてあげて欲しい」 「……昔のこと後悔してる?」 「『後悔』なんて言葉じゃ足りない程にね。セレーネには僕のせいで苦しんで欲しくないんだ。昔の僕は本当に馬鹿だったし、僕の罪は自分が死んだとしても消えることは無いけれど、息子達には関係無いことだろう」 そう言って自嘲気味に笑うアデレードは弱々しく、まるで過去に取り憑かれて未だに雁字搦めになっている様にも思えた。
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