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両親に会う当日、セレーネと共に宮殿へと向かうとお母様付きメイドのラナが出迎えてくれた。
「陛下と皇后様がお待ちです」
「ああ」
ラナについて行く形でお父様の執務室へと着くとセレーネと2人1度大きく深呼吸をしてからノックをして返事が返ってくるのを待った。
「入れ」
少し硬いお父様の声に促されて中へと入ると、執務用の机の近くに備え付けられている椅子に腰掛けているお母様と目が合った。
「我等が太陽であらせられる皇帝陛下と我等が月であらせられる皇后陛下にセレーネ=ミラーがご挨拶を申し上げます」
「舞踏会以来だな。座りなさい」
お父様に促されて近くの椅子に腰掛けると、ラナが俺達の分の紅茶を用意してくれた。
「さて、早速本題に入ろうか」
お父様の言葉に俺とセレーネは緊張でゴクリと喉を鳴らす。
お母様を見てもただ変わらない笑みを浮かべているだけで何を考えているのかは分からなかった。
「ミラー公爵家とも話をした結果、2人の婚約を認めてもいいと結論付けた」
お父様の言葉にセレーネと俺は顔を見合わせて喜びの表情を浮かべる。
けれど、お父様の次の言葉でその表情は不安な物へと変化した。
「ただし、条件がある」
「……その条件とは?」
恐る恐る尋ねるとお父様が1度溜息を吐き出してからその条件を教えてくれた。
「セレーネ君には学園を卒業する間皇后教育を受けてもらう」
「……分かりました」
セレーネが頷くと続けてお父様が話を再開した。
「それから、アステルが卒業するまで2人は常に上位5位以内の成績を維持してもらう。それが出来なければ婚約は認められない」
「……それが出来れば認めてもらえるのですか?」
「そうだ」
お父様の言葉に俺は眉を寄せた。
中々厳しい条件だと思ったからだ。
皇后教育を受けながら成績を維持することはとても難しい。厳しい教育期間の合間に勉強もしなければならないからだ。
俺は成績を維持するだけでいいけれど、セレーネへの負担は相当なものだと思った。
それに記憶が正しければセレーネは……
ちらりと横に座るセレーネの顔を見ると、顔を真っ青にしていて今にも倒れてしまいそうだった。
「……ぼ、僕……」
「無理なら諦めなさい」
セレーネがなにか言おうとしたけれど、お父様にそう言われて黙り込んでしまった。
「話は以上だ」
お母様もお父様の意見に賛成しているのか擁護はしてくれなくて、結局お父様の言うことに頷くことしか出来なかった。
執務室を出ると2人並んで通路を進んでいく。
「セレーネ大丈夫かい?」
「……うん」
暗い表情のセレーネになんと声をかけていいか分からなくて2人無言のまま宮殿を出た。
実を言うとセレーネはあまり成績が良くない。
いつも良いときで中間位の成績で、上位10名に入っているのを見たことも無い。
今までは彼の天真爛漫な性格と美しい所作がそれを補って来たけれど、今回の条件はセレーネにとってとても厳しい物になるだろうと分かっている。
「勉強なら俺が教えるから大丈夫だよ」
馬車に乗り込んで、落ち込むセレーネの肩を抱きながらそう言ってあげる。
でも、セレーネはずっと不安げな顔をしていて結局寮に帰ってからもその表情はそのままだった。
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