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キスしそうな距離に私はドキドキした。それは風間くんも同じだったらしくごめんと言いながら後退りしてはぁーと息を吐く。
「い、いや、すげービックリしたな。松戸に見つかってたら叱られてたなぁ」
「う、うん」
ドキドキして顔を見られず私はフゥー落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせる。焦っていたとは言え、あんなに近い距離だっなんて。
「江見さん、すごーく言い出しにくいんだけど、いい?」
「な、なに?」
「鍵、閉められちゃったみたい」
さっきのがしゃんという音はどうやら鍵を施錠する音だったらしい。幸い涼しい季節だったので教室の窓を開ければ室内は涼しい。
微妙な距離で風間くんと私は会話もなく時計のチクタクと音だけが響く。教室に閉じ込められて一時間、偶然通りかかった先生や生徒がいたらと思ったけれど、今は授業中で廊下はシーンと静まりかえっている。
「江見さん」
「な、なんでしょう」
「なんか暇だし、怪談でもさ、聴かね?」
「えっと、それはいいのかな?」
「いいんじゃね? もう、俺はこの沈黙に耐えられる余裕がないし、なんだか、上手く話せると思えない」
「そ、そうだね」
いつもの癖でポケットからスマホとBluetoothイヤホンを取り出す。ぱかりと充電器を開いて、そこで今日は風間くんもいることに気がつく。
イヤホンの先端は二つ。コードはない。無線でスマホに繋ぐので距離をおいても問題ない。
「は、はい。どうぞ」
いつもの行為のまま、片方を自分の耳にイヤホンをさして、残りのもう片方を風間くんに渡した。ビックリしたような風間くんが、おずおずとイヤホンを受け取り私の隣に座る。え!?
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