1.予想外すぎる、この出会い

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 八島がその後香澄に伝えたのは、様々な形での合図方法。  例えば、どちらかが相手に寄っかかってないか。  相手の膝の上にさりげなく触れていないか……というボディタッチや 「少し酔っちゃったかも」 「寒くない?」  という、ちょっとした会話にも要注意だと、八島は言う。  それらが全て、セックスしたいという意思表示の可能性があるから。 「そ、そんなこと言われても……」  香澄はこれまで、そういう場面に出くわしたことがないから、全く想像つかなかった。  まして香澄が参考にしてきた乙女ゲームは、CERO Aから、よくてB判定……つまり、手を繋ぐとか、キスをするくらいがギリギリの恋愛表現のものばかりだったので 「好きだよ」 「愛してる」 「かわいいよ」  という、直球の言葉しかイメージが湧いてこなかったのだ。 「良い、香澄ちゃん。よーく聞きなさい」 「は、はい!」 「恋愛ゲームにシナリオライターたるもの、特にプレイヤーの性欲を湧きあがらせる表現の幅は広げなきゃ、一生仕事がこなくなると思いなさい」 「いっ……一生!?」 「そうよ。それくらいあなたが今抱えてる問題は深刻なの」  それから、八島が香澄に対し、いかに人間の性欲を刺激する文章を作るためには想像だけではダメかを1時間程延々とレクチャーをした。  そうしている内に、始めは懐疑的だった香澄もレクチャーが終わる頃には 「は、はい!私も人間の性欲マスターになります!」  こんな感じで、八島に感化されて、香澄は宣言してしまった。 「本当は、私のダーリンと行くはずだったんだけど……権利あげちゃう」  と言って、八島は12月24日の夜景が見える高級ホテルのラウンジレストランの予約席を譲ってきた。  本当はペアしか座れない席らしいが 「大丈夫大丈夫!お金さえ払えば、ホテルの人は何にも言わないわ」  自信たっぷりに八島は言ってきた。 「ほ……本当ですか?」  慎重な香澄は疑ったけれど、八島が自信たっぷりに 「ホテルの人間はみんな色々な人間模様を見てきてるから、1人で、イブに、ペア席に現れたら勝手に想像して気を遣ってくれるわよ」  と言うので……ちょっぴり芽生えた複雑な気持ちを押し殺し、言われた通り1人で、できる限りのおしゃれをし、指令通りボイスレコーダーとしての機能も果たせるスマホ1台のみで、場違いなラウンジに香澄は乗り込んでしまったのだった。  そして今香澄は、心の底から後悔している。
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