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香澄が引きこもりになったのは、別に性格だけが理由ではない。
香澄は、とても慎重な性格。
そのため、他人をじっくり観察する癖がある。
本当にこの人は信用できるんだろうかを、探るために。
特に、人間の目は嘘をつけないものだ。
香澄は、いつも目の奥に裏の顔を見てしまい、結果その人が怖くなり避けるようになる。
そうして香澄は、人との対面コミュニケーションをすることそのものにも恐怖を覚えるようになり、今の引きこもり状態がデフォになってしまったのだ。
そんな香澄はまさにたった今、目の前の男性の目の奥に潜む、ただならぬ予感を感じ取ってしまったのだ。
「どうしました?お気に召しませんでしたか?」
「い、いいえ!お気に召しているでございます」
「そうですか。それでは……」
男性は、高そうなマスカットを一粒取り、香澄の唇にまた当ててくる。
「こちらもいかがですか?」
「んんっ……!?」
まるで鳥に餌でもやるような手つきで、男性は香澄の口元に次から次へと甲斐甲斐しく
食べ物を運んでくる。
香澄も、反射的にパクパクと口に入れてしまうが、内心で膨れ上がる戸惑いはどんどん大きくなっていった。
(この人……絶対何か企んでる……!?)
香澄は、自分の市場価値を正しく理解しているつもりだった。
だからこそ、自分の中にある常識と、目の前のイケメン男性の視線が食い違っていることに、香澄は恐れた。
女としても、社会人としても、ほとんど使い物にならないような香澄に、何故この男性が「使えるかも」と言いたげな想いを秘めた笑みを浮かべているのだろうか。
次々と摂取させられる糖分を使いながら香澄は頭をフル回転させながら必死で考えた。
しかし、ほとんどのデザートを与えられ、最後チョコレートドームの順番になるまで、香澄の中での答えは一切見つからなかった。
「ああ、そういえば」
また突然、男の人が口を開く。
「僕としたことが、気が利かないですみません」
「何が……ですか?」
「お飲み物を失念していました。今から用意させますね」
その人は、私のまだほとんど濡れている髪を触りながら、そう言った。
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